第6話 ブランゲルン王国

1.王都見物

私たちは、ザールン王国の国境の町、コンタに着いた。


着いてすぐ、警務隊の本部へ行き、盗賊団を壊滅させたことを報告した。


警務隊は生き残りの捕縛のため出発して行った。


この街は、温泉で有名な街である。


アストラや、その周辺の国には温泉がない。


兄上様も、シャルナとしての私も、温泉に入ったことがなかったので、この街で3泊して、ゆっくり休養を取ることになった。


4日後の朝。


私たちはコンタの街を出発して、ひとまずザールン王国の王都を経て、さらに二つの国を通って、ブラングルン王国へ入った。


さらにいくつかの街を経て...2週間後の午後遅く。


ついにブランゲルン王国の王都へ到着した。


この街は大きい!


アストラの王都も、あの辺りの国の街としては最大の街だが、ここと比べると、さすがに見劣りがする。


おそらく、この世界で最大の街だろう。


私達は、街門で手続きをした。VIP専用の窓口は待たされることもなかった。


私たちの20日前にアストラを発った先遣隊が、クラウゼンでの受け入れ準備を終えて、ここまで出迎えに来ていた。


私たちは、まずは、既に手配済みの宿へと向かった。


「レムニス殿下。シャルナ殿下。遠路はるばる、お疲れ様でございました!」


先遣隊の長を勤める官が声をかけた。


「お出迎えご苦労様です。世話になります。」


兄上様が言った。私はとなりでニコニコしていた。


「途中で、盗賊に遭われた由。心配しておりました。」


「それは孔明たちが片付けてくれた。私も、一人倒したぞ!」


兄上様が誇らしそうにそう言った。


「何とっ! 殿下がぁーっ! 孔明殿。ありがとうございます。」


官は驚いてそう言った後、孔明たちの方を見て、頭を下げた。


その夜は、かなり高級そうな食堂で食事をした。


翌日。兄上様たちは、クラウゼンへと出発した。


ここからクラウゼンへは、馬車で1日とかからない距離にあり、かなり近い。


今は、クラス分け試験のために、1日でも早く試験勉強をした方が良いということである。ここ、王都へは、いつでも来れるのだから。


私たちは、ここにしばらく滞在して、タケミナー商会のための情報収集をするつもりでいる。


兄上様たちを見送った後、私たちは、とりあえず王都見物に出た。


まずは王城へ行った。一部分だが、開放されている場所があり、そこにカフェがあって賑わっていた。観光名刺になっているようだ。


たとえ一部でも、王城を開放しているということは、それだけ国内が安定しているということである。


続いて、色々なギルドの事務所を見て回った。


商業ギルド、ハンターギルド、薬師ギルド....


アストラにはない、工匠ギルドや酒造ギルド、仕立屋ギルド、宝飾ギルド、運送ギルド、料飲ギルド、武器武具ギルドなんかもあって、世界最大の街であることを思い知らされる。


店も見て歩いた。中心街にはずらりと大規模店舗が並んでいる。その多くが何かの専門店であることに気付いて、思わず声を上げでしまう。


「うわああっ! すごーいっ!」


お上りさん丸出しのシャルナであった。


私たちは、その中で、時計と宝石の専門店に入ってみた。


この世界には既に時計はある。ただし、ものすごく高価だ。


世界屈指の富裕国であるアストラでも、国内に100台あるかないか、というところだろう。


たいていは錘(おもり)式の振り子時計である。


アストラの王都では、王城の塔に2台の時計があり、それが王都の親時計になっている。


この時計に合わせて、時鐘が鳴らされる。


何故、2台あるのかと言えば、万一、片方が故障した時に備えてである。毎日2回、錘を巻き上げるために、時計守と呼ばれる職種の人が10人以上いるのである。


そして、毎年、春分と秋分の日に、正午の時刻を合わせて、機械的なズレを修正するようになっている。


その店には、壁掛け時計、置き時計、様々な時計が陳列してあった。置き時計はゼンマイ式である。


その中に、かなり大型の掛け時計があり、それは錘とゼンマイの両方を使うもので、ちょっと興味を引かれた。


「あのおー。これはどうして錘とゼンマイを使うのですかー?」


私はお店の人に聞いてみた。


「そちらは、決まった時刻にカラクリが動いて、音楽がなるものでございます。」


「へええー。どういう動きをするのですか?」


私が言うと。


「一度、動かしてみましょうか?」


と、言うことで、時計を昼1鐘に合わせて、カラクリを動かしてもらった。


それは、その時刻になると、オルゴールの音色に似た音でメルディが奏でられ、小さな人形が何体か出てきて、クルクル廻る。というものであった。


前世の記憶にあるカラクリ時計そのものであるが、この世界で見たのははじめてだった。


私は、これを見て猛烈に欲しくなった。もちろん、母艦の工場で作るのは可能だろうが、この世界の技術で、これだけのことができていることに愛おしさを感じたのである。


「これ。おいくらですの?」


私は、おずおずと尋ねてみた。


想像はしていたけど、ものすごく高かった。当然、今、持っている現金では全く足りなかった。


交渉の結果、こちらの宝石との物々交換で商談をまとめることができた。


幸い、この店は、宝石も扱っていたからであった。


ルビーとサファイア、合わせて10個との交換である。


本来なら、この倍ぐらいの数が必要になりそうなのだが、母艦で、今やマイスターと化した支援タイプのロボットが、丹精込めて多面カットした渾身の作である。


人間技(たしかに…)とは思えないそれは、かなりの付加価値を持っていた。


私は、この時計を、今度、クラウゼンにできたアストラ王家の別邸に設置してもらうつもりだった。


運搬で機械が狂うので、職人に調整してもらう必要があるそうなので、私たちがクラウゼンに着く頃に、設置してもらえるよう頼んで店を出た。

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