5.物流基地
店は無事にオープンした。
しかし、お客さんは全然来ない。毎日、閑古鳥が鳴いている。
まあ、元々、大々的に宣伝する気はなかったし、大勢来られても、きっと対応できないと思っていたので、予定通りではあるけれど、それにしても・・・という感じである。
おかげで、私が王女として公式来店しても、何の混乱もなかったのは喜んで良いのか悪いのか...
もちろん、店はここでの活動をやりやすくするための、いわばカムフラージュなので、全く気にしていない。むしろ、商売で忙殺される方を警戒すべきだ。
私たちはこのスキに、地上における物流基地というか、物資を保管する空間を整備することにした。
倉庫は母艦にも十分あるのだが、マジックボックスをより大規模に、本格的に運用しようとすると、収納物を効率的に保管するシステムが必要になり、それが元々そんなことを想定して作られていない艦内では、少々やりにくかったのである。
この際なので、マジックボックス専用の施設を建設することにした。
建設予定地は、あの大高地の基部。大高地は東西80Km、南北30Km、高さが1000m近くある巨大な台地なので、その下部に少々空間を確保しても差し支えないだろう。
とりあえず、5Km四方、高さ100m程の空間を掘り抜いた。ついでに輸送艦や揚陸艇の掩体壕も作った。
掘り出した土砂はすべて母艦に運んで資源として活用する。ここの土砂は、様々な金属、シリコン、ガラスなどになり、残土も石膏やセラミックの原料として利用できるため、捨てる部分がないのである。
掘り抜いた空間には、まず、最初にワープゲートを接して土砂を除去、その後、建設機械と資材を搬入して工事を行った。運搬に艦艇を使用しないので工期が著しく圧縮された。
完成した流通基地は、某通販会社の流通センターのように、大量かつ多種類の、様々なサイズの物品を、高速に搬出入できるため、マジックボックスの使い勝手が格段に向上した。。
あと、大高地西方の、大砂漠の地下深くに水脈が見つかり、小規模であれば都市の建設が可能であることが判った。
開店から1ヶ月ぐらい経って、街がだんだん年末色に代わり駆けてきた頃、お客さんが徐々に増えはじめた。
寒くなって体調を崩す人が増えたことが原因らしい。
この世界の医者には二つのタイプがいる。適切な薬を選んで渡す者と、祈祷や呪(まじな)いをする者だ。前者は薬師が、後者は神職が兼ねることが多い。
そして、後者の方が圧倒的に多い。それも一定の効果があるようなので、あながちインチキと決めつけることはできないが、感染症や中毒に対してははほぼ無力である。
薬師の方も、徒弟制が基本なので、系統立てて知識と技術を教わるようなことはなく、我流を我流で習得したような者が大多数を占めている。
そういう現実の中で、孔明は、眼力だけで病気を治してしまえそうなオーラと、実際によく効く薬を調合する天才薬師の実体を持っているので、評判が広がり、貴族や富裕層を中心に客足が増えてきたのであった。
孔明の薬がよく効くのは当たり前である。
衛生兵が使う野戦用の医療パックにある、各種診断機器を、この世界の人が見ても違和感がないように擬態させたものを使って、薬草に、必要とあらば科学的に合成した医薬品を混ぜたものを調合しているからだ。
実はこの世界にも「魔法」というものは存在する、と人々は普通に信じている。
ただ、それは、火の玉を飛ばしたり、傷が目の前で閉じて完全に元に戻る・・・といったものではない。
ちなみに、私も前世の記憶があると気付いた後で、ひょっとしてチートで魔法が使えないか?と色々試してみたが、何の進展もなかった。
そういえば、神様にも会った記憶はないけど...
たまに、火の玉を飛ばしたり、手の中に突然、物を取り出したりする人がいるが、それは手品の類いである。
この世界の魔法とは、主に、占術と呪術。あと、ちょっとキワモノ扱いされるが錬金術などが含まれる。
だから、王宮には「宮廷魔導師」なる職種が存在している。
孔明が使う診断機器は、この魔法をイメージしたものに
してある。例えば、七色に輝く宝剣に似せた超音波診断装置とか、魔境に似せたX線カメラとか・・・、使う人間が人間なので、いかにも効きそうな気になるのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます