5.無敵の王女と白銀の守護騎士(ガーディアン)- その1

作成開始時刻になった。


私と戦闘ロボット2体が謀反人たちの制圧に、シータと戦闘ロボット2体がラゴナス邸へ向かい父上様、母上様の救出と邸内の関与者を制圧する手はずだ。これを同時刻に行う。


「私」と言っても、実際は、私を模した戦闘アンドロイド=量産型ワタシを思念波で操作している状態だが、ややこしいのでここでは「私」と言っておく。


私は秘密の抜け道を逆に辿って王宮に侵入し、連中が集まっている部屋へ向かった。勝手知ったる我が家である。途中で何人か顔見知りの侍女とすれ違ったが、特段驚いた風もなかった。誰も阻む者はいなすった。


私は部屋の扉を普通に開けて中に入った。ただしノックなどはしない。


何やら話をしていた途中のようだが、全員が私に気付いて驚いたように眼を見開き、そのまま凝視している。グラドスの護衛の何人か私たちに向かって走り寄り、続いてエンセルが声をかけて控えの間にいるらしい兵士たちを呼んだ。


「これはこれは王女殿下。お探ししておりましたど!」


グラドスが前に出てきてそう言った。


「あなたたち! 今すぐ国王陛下と王妃殿下を解放し、投降しなさい。そうすれば生命だけは助けてさしあげます。」


私は言う。


とても素直に聞くとは思えないけど、一応、降伏勧告はした…というアリバイづくりである。有無を言わさず蹂躙することもできるけど、これじゃこっちが悪者みたいで夢見が悪い。


「何を世迷いこどを! それはこちらの台詞ですぞ。姫殿下。大人しく言うことを聞かれませ。さすれば国王陛下、王妃殿下も安心してあの世へ参れましょう。」


今度はエンセルが言った。


「本当にお花畑な王女様でいらっしゃいますなー 白馬に乗った王子様などでては来ぬものを...」


今度はグラドスがニヤニヤしながら言った。


「ええ、馬に乗った王子様はいませんけど、無敵の王女と白銀の守護騎士(ガーディアン)はここにおりますわよ!」


私がそう言うと、グラドスの護衛の一人が私に近付いてきて、


「ごちゃごちゃ言わずに、痛い目に遭わないうちにさっさと大人しくしなっ! 」


こいつはいつもグラドスの側にいて事ある毎に居丈高な態度を取る奴だった。以前から私は、こいつがとても嫌いだった。


男はそう言いながら、私を捕まえようと少し実を屈めて覆い被さろうとしてきた。


私は少し低くなった男の顔を、全身の力を込めて横殴りにした。


「がきっ!」


何かが砕ける音がしたかと思う瞬間、男の体がもの凄い速度で飛んだ。


「べちゃっ!」


見ると柱の上の方に皮が一部ついたままの髪の毛の塊が赤い液体とともにこびり付き、その下には肉と骨と布きれの破片が血しぶきとともに飛び散り、少し離れた所に腰から下だけになった人間が転がっていた。


「ひゃあああああーっ!」


誰かが叫んだ。


もう一人の護衛の男が剣を抜いて斬りかかろうとした瞬間、戦闘ロボットが人差し指からレーザービームを発射。剣を振りかぶった、男の肘の関節を射貫いた。


戦闘ロボットは、照準マーカーや信号用に両手の人差し指にレーザー発振機が標準装備されている。これを高出力で発射したのである。出力が弱いので対人戦闘ぐらいにしか使えないものだが、ここでは十分役に立ったようだ。


「うわあっ!」


男は剣の重さを支えきれなくなってバランスを失い、剣の重さで自分の太ももを切り裂いた。


男はその場でへたり込んだまま、しばらく血の海の中で、自分の身に起こった事態を見つめていたが、やがて仰向けに倒れてそのまま動かなくなった。


停止していた連中が、事の異常さに気付いて、逃げの姿勢に転じようとした刹那、戦闘ロボットが筒状の物体を、いくつかのグループになっていた謀反人たちの頭上に放り投げた。


「パカっ!」


小さな爆発音とともに霧状の液体が連中の体に降り注ぐ。


「ぎゃあああああーっ!」


1分も経たないうちに絶叫と、喚き、泣き叫ぶ声が室内に溢れた。


これは、星間連合が暴動鎮圧に用いる化学兵器だそうだ。痛覚神経に作用し激痛をもたらす。中和剤を使わなければ効果は24時間持続する。体内に吸収されなかった液体は1分ぐらいで無効化される。


致死性はない。ただし、24時間後に正気でいられるかは別問題だと思う。


孔明は、決して人を殺さない人道兵器だとドヤ顔(顔はないけどね…)で言ってたけど、これが本当に人道的かどうかは微妙なところだと思う。


騒ぎを聞きつけて警備兵が駆けつけて来た。


「王女殿下! ご無事でいらっしゃいましたか。」


私を見て全員が跪きそう言った。


「この者たちは王家の簒奪を目論んだ謀反人たちです。直ちに捕らえなさい。それから...」


私はそう言ったあと、謀反人たちのリストを手渡し、関係者の捕縛、屋敷と財産の接収、幽閉されている者の救出を命じた。


「私はこれよりラゴナス邸に捕らえられている国王陛下と王妃殿下の救出に参ります。誰か近衛の者を呼んできて下さい。」


実はラゴナス邸の方も救出、制圧完了の報は受けている。戦闘アンドロイドは母艦とリアルタイムでリンクされているので状況は隣で見ている感覚で把握できているのだ。


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