第49話

 雪兎ゆきとの件で、義則よしのりたちは報告の為、黄龍の間宮の屋敷へ来ていた。

「そうか、大儀であった」

 間宮まみや鱗十郎りんじゅうろうは、義則たちに言ってから、

「罪人よ、申し開きはあるか?」

 と尋ねた。

「ございません」

 男はもう、言い訳はしなかった。男が金のために悪事を働いた事は、義則たちが報告済みであり、間宮が情けをかけてくれるなど、期待するのも無駄だと悟ったようだ。

「では、お前には服従の契約を課す」

 そう言って、契約書に血判を押させた。

「それで聞くが、私の黄龍を封じて、どうするつもりだったのだ?」

 間宮が聞くと男は、

「依頼主に黄龍を渡せば、大金がもらえる」

 と答えた。

「ほう、私の黄龍の値段を付けた者がいるのだな。それで、いくらだ?」

「一千万円」

「ふんっ、安くみられたな。依頼主は誰だ?」

「知らない」

「連絡方法は?」

「メール」

「依頼主はなぜ、黄龍を欲しがった?」

「知らない」

「お前は、依頼主が黄龍を欲しがった理由は何だと思う?」

「黄龍は麒麟きりんだという、噂を耳にした。麒麟を手に入れれば、幸運と財運が手に入ると」

 と男は素直に答えた。服従の契約の効力だろう。

「ここに集まった中にも、私の黄龍が麒麟ではないかと思っている者もいるだろう。本当にこれが麒麟なのか、お前たちの目で確かめよ」

 そう言って、間宮は黄龍を出した。キラキラと光り輝く黄金の鱗に包まれた巨体の龍が姿を現した。大広間でも、その身体は収まりきらない。そして、その神々しさは正に神龍。

「お前たちの目に、これは何に見えるのか? これが正に私の黄龍の真の姿だ。これを目にした者はそれだけで幸運を得るだろう。しかし、愚かにも、黄龍を捕らえようとする者がいるらしい。黄龍はよこしまな心を持つ者には、幸運ではなく不運をもたらす。それを、肝に銘じるがいい」

 間宮はそう言って黄龍を戻した。誰に向けて言った言葉なのだろうか。この中に黄龍を奪おうとしている者がいるのか。一体誰が敵なのか。皆、不安な表情を浮かべている。


 雪兎の件はこれで、一件落着だったが、新たなる疑惑が浮かび上がってきた。


 散々な目に遭った雪兎だったが、彼が言うには、間宮の黄龍を奪うために、龍使いを利用しようとした者が、白龍使いの雪兎を選んだ。その理由は、龍使いの中で一番弱いという単純なものだった。ただ、それも簡単なことではない。雪兎には白龍がいて、彼を守っているのだ。まずは、白龍の霊力が呪術によって封じられ、雪兎が留守の間に、他の者が両親の魂を封じ、それを盾に、別の者が雪兎に服従の契約をさせた。そして、雪兎の屋敷に闇の者を召喚し、彼を恐怖で支配していた。


 いつものカフェに四人が集まり、雪兎から改めて、そんな話を聞かされた義則は、

「ほんとに悪い奴らだなあ。もっと懲らしめてやればよかった」

 と憤りを露わした。

「ありがとう、義則君。僕の為に怒ってくれて」

 と雪兎は薄く笑みを浮かべた。まだ心の傷は癒えていないようだ。そんな雪兎を心配顔で見つめるあや

「心配するな、俺たちがついている。絢だって強いんだから。雪兎に手を出す奴は、絢がコテンパンにしてやれ」

 と義則が言うと、

「コテンパンって」

 と絢が笑った。


「ところで、母さんが言っていた麒麟って、みんなが思っていた事だったんだな。でも、間宮のあれは龍だ。麒麟じゃない。これで誰も黄龍を奪おうなんて思わないだろう」

 義則が言うと、

「うん。でもね、その麒麟の話には続きがあるんだ」

 と言って、雪兎は語り出した。


 麒麟は太平の世に姿を現すという。誰もその姿を見た事が無いのは、人々が争いを止めず、太平の世となることがなかったから。今も私利私欲のため、麒麟を手に入れようとするよこしまな考えを持つ者が世を乱す。これから先も、きっと同じように人々の争いは絶え間なく続く。その間、麒麟はどこに姿を隠しているのか。黄龍が麒麟であるという噂があるのは、誰も黄龍の姿を見た事がなかったから。それが麒麟と重なったのだと。ただ、龍使いが知っている事は、それだけではない。黄龍の性質は間宮が言った通り幸運を齎す。邪を嫌い、戦いを嫌う。そして、慈悲深い。それは、正に麒麟そのもの。黄龍は麒麟の別の姿であり、太平の世となった時、その姿は麒麟となる。


「なるほどな。それじゃあ、麒麟を手に入れようとしたのは、龍使いか?」

 義則が聞くと、

「龍使いは、白龍の僕、青龍の葵さん、赤龍の早川さん、黒龍の日野さん。僕が思うに、みんな黄龍を欲しがったりはしない。僕も含めてね。だから、龍を持たない者が欲しがっていると思う。これは僕の推測だけど、間宮家の分流で、龍使いの血筋でありながら、龍使いになれなかった者の誰かとか?」

 と雪兎が言う。

「そうか! お前、中々、鋭いな!」

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