第67話

 外の状況は全く分からないが、暫く待っていると、

「奴が動いた」

 と隼人はやとが言った。

「おう、状況は?」

 と義則よしのりが聞くと、隼人は目を瞑って、

「外の状況は……」

 と言って、説明を始めた。


 京極きょうごくは黄龍を奪おうとしたが、そこに佐々木とその一族が守りに入っている。そこで、京極は味方を呼んだが誰も来ない。それも当然だ。もう既に全員捕らえて、呪縛している。京極はその場を後にして一旦引く気だ。だが、そうはさせない。


 隼人は一旦、そこで言葉を切って、

「親父、逃げる気だ」

 と父に向かって言った。返事は義則には聞こえなかったが、隼人には返って来たようで、

「分かった」

 と返事をした。

「親父たちが、京極を足止めした。叔父が、外からこの領域に亀裂を入れる。俺たちはそこから出るぞ」

 と隼人が言った。

「おう!」

 その後、白く光る縦の筋が空間に現れた。

「そこだ」

 隼人が言って、その光る筋に手を翳して振ると、それは広がり、

「犬使い、先に出ろ」

 義則に言ってから、

蒼佑そうすけ様、さあ、一緒に」

 と隼人はあおいの手を取り、一緒に外へ出た。先に出た義則に、京極の式神の鬼が襲いかかった。

「おおっ、ヤバいぜ」

 義則は身を躱して転がった。そのあとに出てきた隼人が、鬼を払いのけ、葵を安全に外に連れ出した。

「俺、おとりだったのか?」

 義則が言うのを無視して、隼人は葵を後ろへ庇う様に京極と対峙した。隼人の父、義人よしとと、叔父の正人まさとは、京極を術で捕えていた。

「親父、捕らえたな」

 隼人が言うと、

「ああ、これからこいつを呪縛する。お前も手を貸せ」

 義人よしとが言うと、

「分かった」

 と隼人は答えて、二人で大幣おおぬさを振り、いにしえの言葉を唱え始めた。術に捕らわれた京極は、なおも抵抗し、バチバチと静電気のような光が発せられ、義人よしとのかけた術が解け始めた。

「まだ、そんな余力があるのか」

 その光景を見ていた正人が呟く。

「大丈夫か?」

 義則が聞くと、

「さあね、分からないよ。二対一で互角かな? 京極の霊力が削がれていなければ、勝ち目はなかった。君たちのおかげで、今こうして、戦えているんだ。本当に、京極きょうごく高文たかふみは強いね。残念なことに、僕は呪縛の術は苦手でね。加勢は出来ない」

 と正人が言った。

「そうなのか?」

 義則が聞くと、

「うん。僕は癒しと呪い返しが得意だ。兄と隼人は呪縛と結界術が得意なんだ」

 と正人が答えた。

「なるほどな」

 二人がそんな会話をしている間も、京極と隼人親子が、一進一退の攻防戦を繰り広げていた。


「俺に出来ることはないか?」

 義則が聞くと、

「君に出来る事ね? あっ、そういえば、君の霊力、強いんだったね。僕の癒しの術を使って、君の霊力を二人に送ってみよう。霊力が上がれば、術の力が増すんだ」

 と正人は、加勢できることに喜んだ。

「いいかい? 僕の手に君の手を重ねて、僕に霊力を送る。君がやるのはそれだけだ。簡単だろう?」

 と正人が言ったが、

「え? 霊力を送るって、どうするんだ?」

 義則には分からなかった。

「ああ。この間は、口づけだったね。あれは霊力を送らなくても、相手が霊力を吸って補ったんだ。霊力を送るというのは、そういう気持ちを持って相手に送るイメージをするんだ。出来なくてもいいよ。緊張しないで、とにかくやってみてよ」

 と正人が笑顔で言う。口づけという、忘れたい出来事を思い出させた正人には、まったく悪気はないようだ。

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