第66話

 敵の大将が黄龍を斬り裂き降りて来る。犬たちは牙をむきながら、男に襲いかかったが、次から次へと落ちていく。

「おい! どうしたんだ⁉」

 銀色の毛を煌めかせ、星屑のように落ちていく犬たち。その中にくろの姿も。

くろ!」

 義則よしのりは犬たちが落ちていく先へと駆け寄った。義則には犬たちを受け止めることは出来ず、ボト、ボトと地面に落ちた。

「お前ら! 大丈夫か⁉」

 上を見上げると、更に犬たちが落ちて来る。

「犬使い、そこを離れろ。危ないぞ」

 と間宮は言って、

「黄龍、行け」

 と斬り裂かれて落ちた黄金の龍に向かって言った。黄龍の霊気は損なわれていたが、身体を元に戻し、再び空へと舞い上がった。しかし、その輝きは半減していた。渾身の力を振り絞り、敵に向かっていったが、呪術の光る鎖に縛られ、動きを封じられた。

「あっ! 黄龍が!」

 義則は声を上げた。その時、

「遅くなって済まない」

 と峰人みねひとが、黒魔獣戦士を引き連れてやって来た。

「おおっ! みねちゃん! いいところに! あいつが親玉だ! やっつけてくれ!」

 と敵を指差して言った。

「任せろ! お前ら、行くぞ!」

 そう言って、峰人は黒魔獣戦士五人で、敵に向かっていった。峰人の魔獣は、黒熊。そして、仲間には、黒牛、黒豹、黒鹿、黒狐がいる。最大の力を解放すれば、身体は巨大に、その容姿は異様で、正に魔獣といったところだ。そしてなにより、圧倒的な霊力を持っていた。

「おおっ、あいつら、俺たちと戦った時より、強い霊気だな」

 義則が言うと、

「手加減していたのだろう。子供相手だからな」

 と間宮が言った。

「お前、俺の事、子ども扱いするなよ。それより、俺たちの魔獣、瀕死状態だぜ。戦闘不能だろう。よく、冷静でいられるな」

 落ち着いている間宮を見て、義則が言うと、

「敵を倒すのは私ではない」

 と間宮が言った。そこへ、青龍に乗った隼人はやとあおいが来て、

「雑魚は片付けた。あれが京極きょうごく高文たかふみか?」

 と聞く。

「そうだ」

 と間宮が答えると、隼人は印を結んで、いにしえの言葉を唱えた。すると、大型黒魔獣と大乱闘していた京極が、一瞬、動きを止めた。それまで、五体の大型黒魔獣を相手に互角だったが、黒熊の拳に殴り飛ばされ、地面へ向かって落ちていく。しかし、地面に叩きつけられる前に、京極の式神の鬼が受け止め、地面にそっと下した。

「ふんっ、猫使いが。生意気だな」

 京極からは、強気な言葉が出る。

「あんた、もう、俺たちに勝てないぞ。降参したらどうだよ」

 義則が言うと、

「ふんっ、笑わせるな。黄龍もお前の犬も瀕死状態だろう」

 と京極は言葉を返した。

「そう言うお前も霊力を消耗している。もう俺に勝てないだろう?」

 と隼人が言った。

「ふんっ」

 京極は鼻で笑うと、式神の鬼をけしかけ、闇に姿を消した。

「逃がすかよ!」

 隼人は京極を追いかけた。

「隼人!」

 葵が隼人を追いかけていく。

「間宮、呪術を使える奴を集めてくれ、俺も隼人を追う」

 義則はそう言って、隼人と葵を追いかけて闇の中へ入った。それは完全に罠だった。隼人がそれに気付かないはずはない。それでも、敵を追い詰めたかったのだろう。その場所は京極が作り出した異空間の領域だった。

「はははっ。飛んで火にいる夏の虫とはお前らの事だ。愚かだな。ここに入ったら最後。もうお前らに勝ち目はない。お前たちは無力だ」

 と京極は高笑いした。

「お前、この期に及んで、卑怯な手を。俺たちを捕まえて、何がしたいんだ?」

「ふんっ、お前たちなど俺の敵ではない。ただ、目障りなだけだ。ここからは出ることはできない。生意気なお前らが悔しがる顔を見るのは楽しいな」

 京極が言うと、

「悪趣味だな」

 と隼人が一言。

「俺もお前らに構っているほど暇じゃない。そろそろ行こう。黄龍はだいぶ弱まったからな。簡単に奪える」

 京極はそう言って、笑いながら闇に消えた。

「隼人、俺たち捕まったぞ。このあと、どうするんだよ?」

 義則が言うと、

「はっ! 俺がこんな見え透いた罠にかかるとでも思ったのか? 勝手に着いてきやがって」

 と隼人が義則に言うと、

「え? 隼人? どういう事? 僕も勝手に着いて来てしまったけど? 足手まといだったか?」

 と心配そうに葵が言う。

「いえ、蒼佑そうすけ様を迷惑だなんて思いません。俺を心配して着いて来てくれたんですよね? 嬉しいです」

 と隼人は葵の手を取って言った。そして二人は見つめ合う。

「お取込み中悪いが、隼人、お前の作戦を教えてくれよ」

 仲睦まじい二人に水を差す気まずさを感じながら義則が聞く。

「この領域は術者と繋がっている。術者がどこに居ようと、気配を消していようと関係なく、術者は近くにいるという事だ。逆に言えば、こちらも術者を攻撃しやすいという事だ」

 と隼人が説明した。

「え? でも、俺たち捕まっていて、何も出来ないだろう?」

「俺が単独で行動しているとでも思ったのか? 外には親父と叔父がいる」

 と隼人は不敵な笑みを浮かべる。

「隼人、お前、そんな顔するんだな? 初めて見た」

 葵は嬉しそうに言って、隼人を抱き寄せた。

「お前ら、どんな状況でも仲良しだな」

 義則が嬉しそうに笑って言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る