第65話

 間宮の屋敷に着くと、既に戦闘は始まっていて、黒龍が漆黒の霧を纏いながら宙を舞い、何かと戦っていた。敵の操るモノも黒く、ただ闇しか見えなかった。

「行くぞ!」

 義則よしのりくろに乗ったまま、屋敷の門を飛び越えて、敷地内に入った。仲間もそれに続く。黄龍の姿はない。あの煌びやかな姿は、外に出れば嫌でも目に付く。

「俺は間宮を探す。お前らは……。為すべき事をしてくれ!」

 神職の彼らの為すべき事に詳しくない義則はそう言って、間宮を探しに行った。至る所に、黒い闇のような空気と、妖しげな者たちが戦っていた。京極家の者と、佐々木家の者の戦いだ。

「間宮! 加勢に来たぞ! どこにいるんだ⁉」

 くろに乗ったまま義則は駆けていく。

「そうだ! さくちゃん、しずく! みんなどこにいる⁉」

 ここには強い仲間がいる。だから、彼ら身は安全とばかり思っていた。

「お前ら、探せ!」

 義則は銀色の犬を放った。ワオーンと一声吠えて、犬たちは駆けだして行く。

『居たぞ』

 くろが言って、そちらへ向かった。そこは強固な結界に守られていた。

『この中に、間宮、朔太郎さくたろう、雫がいる』

 とくろが答え、銀色の犬たちも集まっていた。

「間宮! さくちゃん、雫。無事なんだな?」

 義則が声をかけると、

「ああ、無事だ」

 そう言って、間宮が出てきた。

「こいつらは弱すぎて、戦闘には不向きだ。外に出れば死ぬ。お前が来たのなら、こいつらの事は任せる」

 間宮はそのまま、外へ向かった。

「お前も戦うのか?」

 義則が聞くと、

「当り前だ。王の私が隠れてどうする?」

 間宮が言った。

「俺も行く」

 義則はそう言うと、

「あの二人はいいのか?」

 と結界の張られた部屋を振り返った。

「さくちゃんも雫も、魔獣操士だ。戦いに不向きだとしても、覚悟はできている」

 義則はそう言ってから、

「さくちゃん、雫、俺が来たからには、お前たちを死なせはしない。出て来て、一緒に戦おうぜ」

 と二人に声をかけた。この戦いが始まってから、すぐに間宮は二人を匿い守り続けていたが、

「分かったわよ。あんたがそう言うのならやるわよ」

 と雫が、

「仕方ないな。俺も魔獣操士だ。これも宿命だな。義則君の犬、しっかり俺をフォローしてくれよな」

 と朔太郎。

「分かってるって。俺を誰だと思っているんだ? 魔犬を操る魔犬操士。犬は群れを成す。そして、主に従う」

 そう言って、義則はにやりと笑う。

「行くぞ! お前ら!」

 義則が言うと、ワオーンっと、犬たちは一声吠えて、駆けだして行った。

「俺たちも行くぜ!」

 朔太郎も言って、雫と一緒に駆けだして行った。

「あいつら、あんなに怯えていたのにな。弱いくせに」

 と間宮が呟く。

「弱くなんてないぜ。あいつらは一人じゃない。俺がいる。お前もいる。他にもたくさんの仲間がいるんだ。この場に来ていない奴らもみんな、戦っている。一人じゃない」

 義則はそう言って笑みを見せた。

「俺たちも行くぞ」

 間宮に言って、その肩にポンと触れて、義則はくろを連れて駆けだして行った。それを見て、間宮は、ふっと笑みを浮かべて、

「大した奴だな」

 と呟いて、激戦中の表へでる。


 間宮は黄龍を表に出し、まさに王としての威厳を漂わせて、敵の前に姿を見せた。

「やっと現れたか」

 そう言ったのは、敵の大将なのだろう。中年の男で、禍々しい霊気を纏っていた。

「お前は誰だ? 無作法にもほどがある。私の屋敷を壊し、従者を傷つけたことは許し難い。そこへ直れ」

 間宮の言葉に、

「はっ! いつまでその王様気取りで居られるか見物だな」

 と男は言葉を返した。

「無礼な奴め。黄龍、やれ」

 と間宮が命令すると、黄龍は輝く鱗を逆立てて咆哮し、その口を大きく開いて、男へ向かって突進した。男を咥えた黄龍は、そのまま天高く昇って行く。その姿は神の如く神々しい。

「おお、すげーなあ。やったのか?」

 と義則が聞くと、

「まだだ」

 と間宮が言う。天に昇った黄龍を見上げていた義則だが、その異変に気付いた。黄龍の身体が上から下まで斬り裂かれていった。

「あっ! 黄龍が!」

 義則は叫んだが、その隣では冷静に見つめる間宮がいた。

「おいっ! 間宮! 黄龍が死ぬぞ!」

 と慌てたように義則が言ったが、

「あれは霊獣、死ぬことはない」

 と間宮は言う。

「でも、あれじゃあ、負けちまうじゃないか」

「なら、お前の犬でもけしかけろ。魔獣も霊獣も呪術とは相性が悪い。しかし、敵の霊力を削ぐことは出来るだろう?」

 間宮は静かに言った。

「そうか! 分かった! お前ら、行け!」

 義則が犬たちに命令すると、くろを筆頭に銀色の犬たちも毛を輝かせて天から降りて来る敵へ向かって駆けて行った。

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