第64話

 美鈴みすずは起き上がったが、その顔は鬼のような形相に変わり、

『こいつの命を救いたければ、それを止めろ』

 と、こちらを睨んだ。

「ほう、止めれば赤龍使いへの呪いを解くと言うのか? それなら止めてやろう。だが、信用できない。お前が約束を守ると言うなら、契約を交わせ」

 義人よしとが言うと、

『分かった』

 と相手は答えた。義人よしと大幣おおぬさを振って、いにしえの言葉を唱えると、美鈴は糸が切れた操り人形のようにばったりと倒れた。

「美鈴!」

 義則よしのりが駆け寄るのを、隼人はやとは止めなかった。

「美鈴?」

 義則が呼んでも、反応は無い。

「心配するな。死んではいない」

 隼人が美鈴に近付き、後頭部へ手をかざして唱えると、隼人の手から出た霊気が虫を引きずり出した。それはムカデのような多足類の気持ちの悪いものだった。既に死んでいるようで動かない。

「叔父さん、こいつを処分してくれ」

 隼人が言うと、正人まさとが、

「うん」

 と言って、その虫を浄化した。

「終わったんだな?」

 義則が聞くと、

「ここはな」

 と隼人が答えた。

「どういうことだ?」

 義則が聞くと、

「佐々木の式神が来ている。黄龍が襲われている」

 と隼人は厳しい顔で言った。

「何だって⁉」


 外での戦いも終わっていて、

「赤龍、とんでもなく強いな」

 峰人が言った。相当派手な戦いだったらしく、美しい庭が酷い有様だった。

はくも頑張ったんだよ? 青龍だっていたのに、本当に大変だったよ」

 雪兎ゆきとが言うように、彼らの魔獣は満身創痍だ。霊力を相当消耗していた。

「そうか。お前ら、ありがとうな。美鈴も無事だ。だが、悪い知らせがある。間宮が襲われている」

 義則の言葉に、一同騒然とした。

「俺は行く」

 後ろを振り返って、隼人たちを見ると、彼らも頷いている。

「お前たちは、もう戦えないなら来るな」

 義則はいつになく厳しい表情で言った。黄龍を襲っている者が、更に手ごわい相手だと皆が理解した。

「よっしー、あたしはお留守番ね」

 美姫みきが笑顔で言うと、

「ああ、そうしてくれ」

 と義則が言う。

「私の火の鳥は癒しの力があるの。でも、戦闘向きじゃないから、私も行かない」

 あやが言って、

「僕は絢ちゃんを守るのが使命だから、絢ちゃんの傍に居る」

 と雪兎。

「俺はまだ戦える。黒の戦士を呼んで駆け付ける」

 と峰人みねひとが言った。

「おう! さすがみねちゃんだな。頼りになるぜ」

 義則が言う。

「そろそろ行くぞ」

 隼人が言う。出発の準備が出来たようだ。

「ああ、行こう。お前ら、みんなを乗せて、間宮んちへ行くぞ!」

 義則は銀色の犬たちに言った。ワオーン、と一声吠えて、犬たちは仲間を乗せて駆けていく。隼人が行くという事は、もちろん青龍も一緒だ。

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