第63話

 義則よしのりが赤龍使いの屋敷に着くと、すぐに門は開かれ、黒服が、

「高木様、お待ちして居りました。中へどうぞ」

 と招かれた。

「みんなは集まっているか?」

 黒服に聞くと、

「はい、母屋に居ます」

 と答えた。急いで母屋へ向かうと、突然の轟音と共に、母屋の建物が揺れて、屋根が突き破られ、そこから姿を現したのは赤龍だった。

「みんな無事か⁉」

 義則が声をかけると、屋敷から仲間が飛び出してきた。

「ごめんね。止められなかったよ」

 と雪兎ゆきとが言い、

「私の火の鳥でも抑えられなかったわ」

 とあや

「あたしのあおちゃんは、しっかり守ってくれたわ」

 と美姫が言った。

「赤龍は俺たちだけでは抑えられないぞ」

 と峰人みねひとは赤龍を見上げた。その時、青龍が現れ、赤龍へ体当たりした。

「待たせたね」

 と言ったあおい隼人はやとと共に銀色の犬の背に乗ってやって来た。そのあと、隼人の父の義人よしと、叔父の正人まさとも、それぞれ銀色の犬の背に乗って駆け付けた。

「始まったな。赤龍は魔獣たちに任せよう。早川はどこにいる?」

 義人よしとが聞くと、

「こっちだ」

 と峰人が言って案内した。

「お前ら、みんなで赤龍を抑えておけ。俺は隼人たちと一緒に美鈴みすずの所へ行く」

 義則はそう言って、隼人たちを追いかけて母屋の中へ入っていった。赤龍は中でも暴れたらしく、酷く荒れていた。奥の広い座敷に美鈴はいた。上座に座りこちらを見据えている。

『来たか』

 その声は美鈴の声と、他の誰かの声が合わさっていた。

「お前は誰だ?」

 義人よしとが聞くと、

『名を明かす馬鹿がいると思うか?』

 と不敵な笑みを浮かべた。

「名前を明かすと、不利になるのか?」

 義則よしのりが聞くと、

「呪いをかけるのに、相手の名前を知る必要がある」

 と隼人が答えた。

「そうか! あいつ、京極家の奴だろう? 当主の名前は確か? 高彦? 高義? 何だったかな?」

 義則が考えていると、

高文たかふみだ」

 と隼人が答えた。

「おう! そうだ!」

 その瞬間、美鈴が立ち上がり、両手を振ると鬼の姿をした式神が数体現れ、隼人たちに襲いかかった。彼らの魔獣の猫はあるじを守るため応戦したが数が足りない。

くろ、お前も行け!」

 義則が言うと、

『分かった』

 とくろが言って参戦した。それから、義則は指笛を吹き、銀色の犬を呼んだ。義則の影からそれらは、次から次へと現れ、仲間に付けていたものも集合し、全部で九十九体となった。

「全員集合はこれが初めてだな。お前たち、隼人たちを守れ」

 ここ銀色の犬を集めたことで、黄龍のところで、何かあっても連絡手段は無くなったが、向こうには黒龍もいる。呪術に長けた佐々木家の者も集まっていた。何とかなるだろうと義則は思っていた。


 隼人とその父、義人と、叔父の正人は美鈴と対峙して、術の掛け合いをしていた。三対一で互角に見える。相手は相当強い。

「隼人、そいつ、何とかなりそうか?」

 義則が聞くと、

「赤龍使いを操っているのは、京極高文じゃない。他の奴だ」

 と隼人が答えた。

「そうなのか。名前が分からないと、術は解けないのか?」

 義則が聞くと、

「難しい。攻撃の相手が特定できない。親父、鏡を」

 隼人が言うと、既に義人は離脱して、準備を始めていた。

「俺に何かできるか?」

 義則が聞くと、

「親父の周りに結界を張る。その手伝いをしてくれ」

 隼人が言うと、

「分かったぜ。隼人のお父さん、何でも言ってくれ」

 と義則が義人よしとに言う。

「ここに、四本の青竹を立てて聖域を作る」

 そう言って、青竹とそれを立てるための物を義則に渡して、義人よしとは祭壇を立てて、鏡を置いた。義則も言われた通り準備して、

「出来たぜ」

 と言うと、

「よし、君は聖域から出なさい」

 と義人よしとが言った。

「おう! 後は頼んだぜ」

 義則が聖域から出ると、義人よしとは早速、銅鏡を使って、相手に攻撃を仕掛けた。銅鏡の前に焚いた火が燃え上がり、それが人型となった。先日、義則が見た光景だった。その後、義人よしとは炎と戦い、銅鏡には相手の姿が映し出された。そして、銅鏡に向かって強い霊力を向けて攻撃した。すると、鏡の中の者が消えて、美鈴みすずは絶叫して倒れた。

「おい! 美鈴! 大丈夫か⁉」

 思わず駆け寄ろうとする義則の腕を、隼人が掴み、

「まだだ。終わっていない」

 と言った。

「けど、美鈴が」

「赤龍使いはお前を傷つけたくはないはずだ。耐えろ」

 隼人はそう言って、倒れた美鈴へ視線を戻す。

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