第62話

「それじゃあ、くろ、話してくれ」

 義則よしのりが言うと、くろは語り出した。


 俺は赤龍使いの屋敷に入ると、まずは黒服の男たちを嗅ぎ回った。あいつらはいつも警戒している。だが、敵の刺客ではなかった。次に、茶を持って来た奴だが、あれは全く問題ない。その後、屋敷内の人間を嗅ぎ回った。そして、妙に警戒心を持った奴を見つけた。女だ。背の高さは美姫くらい。年齢は分からないが若い。髪の色は黒。服の色も黒。ついでに眼鏡の縁も黒だ。


『そいつが怪しい』

 くろが言うと、

「誰だよ、そいつ?」

 義則が聞く。

『報告は以上だ。そいつを探るのはお前だろう』

 とくろが言葉を返した。

「黒い服、黒髪、黒ぶち眼鏡か。美鈴の秘書の一人に、そんな奴がいたかもな? それで、どうやってその女を探る?」

 日野が問いかけると、一同、悩む。

「この話は、赤龍使いには言わないのか?」

 祖父が言うと、

「じいちゃん、美鈴には虫が寄生しているんだ。話したら、敵にバレるだろう?」

 義則が答えて、

「ああ、そうか。それじゃあ、どうするんだ?」

 と祖父が問う。

「その刺客を呼び出せばよいのでは?」

 と母が言う。

「それな!」

 義則が言うと、

「どうやって呼び出すんだ? 魔獣を使えば警戒されるぞ」

 と日野が言う。

「それなら、呪術師か神職の猫使いにお願いしたらどうかな?」

 と父が言う。

「それな!」

 阿呆あほうな義則はそれしか言わない。

「いい考えですね」

 と母が賛同し、その作戦を実行することにした。


 翌日、早速、隼人はやとが式神を使い、女を屋敷の外へ呼び出し、そのまま隼人の神社へ連行した。簡単に女を連れて来たが、一体どんな方法を使ったのかは、義則には分からなかった。

「それで、あんた。一体、何者なんだ?」

 義則が聞くと、

「何が聞きたい?」

 と言葉を返された。

「俺が聞く」

 隼人がそう言って、詰問を始めた。

「名前は?」

京極きょうごく清子きよこ

美鈴みすずに何をした?」

「虫を入れた」

「お前に取り出せるか?」

「私には出来ない」

「誰ならできる?」

「……」

 女はそれには答えず、吐血して倒れた。

「まずい!」

 隼人はそう言って、女の口を手でこじ開けた。舌をかんだわけではないようだが、何かの術の発動があったようだ。隼人が印を結んで、その術を解こうとすると、女の身体に光る文字が身体に巻き付くように浮かび上がった。

「強い呪縛だ」

 そう言って部屋に入って来たのは、隼人の父の義人よしと。女の身体に現れた文字に直接触れて、古の言葉で唱えると、光る文字の鎖が弾け飛んで消えた。二人がかりでやっと呪縛を解くと、女は苦しみから解かれ、意識を失った。

「ひどいな。身内にこんな惨いことを。下手したら死んでいた」

 と隼人が言葉を吐き捨てるように言った。

「それで、こいつ、大丈夫なのか? 死んでねえよな?」

 義則が心配そうに言うと、

「死んでねえよ。俺の言葉聞いてただろう?」

 と隼人が呆れ顔で答えた。

「敵に知られたな」

 ぽつりと義人よしとが言う。

「ああ。赤龍使いが危ないな」

 隼人が言った。

「え? そうなのか? それじゃあ、早く何とかしないとだろう? どうする? もう、敵が攻めて来るのか?」

 義則が慌てたように言う。

「ああ、今すぐ赤龍使いのもとへ行く方がいい。蟲毒の術を発動するだろう」

「そりゃ、ヤバいぜ」

 義則はそう言って、

「おい、お前ら、出番だぜ。それぞれの配置に着くように俺の指示をみんなに伝えろ」

 仲間に付けていた銀色の魔犬に命令した。

「いいか、美姫みき雪兎ゆきとあや、みねちゃんは赤龍使いの屋敷へ。さくちゃんとしずくは間宮んちへ。隼人の叔父さんはここへ今すぐ連れて来い」


「隼人、準備を急げ」

 義人よしとが言うと、

「ああ、分かった」

 と答えて、敵と戦うための準備をしに行った。そこへ、銀色の犬の背に乗せられて、正人まさとがやって来た。

「とうとう、この時が来たね。兄さんたちは準備に行ったかな?」

 と義則に聞く。

「おう、そうだぜ。俺は先に赤龍使いの屋敷に行ってるから、急いで来てくれよな!」

 義則が言うと、

「うん」

 と正人は答えて、隼人たちの準備に加わった。それを見て義則は、

くろ、行くぞ!」

 とくろに声をかけた。すると、くろの身体は大きな獣の姿なり、

『乗れ』

 と一言言った。

「おう! いざ戦場へ!」

 義則は指を指して命令した。

『方向はそっちじゃねえ』

 くろは呆れたように言って、義則が指した方向とは逆に向かった。義則は相当な方向音痴である。

「そうか! そっちか! 行け!」

 改めて方向を指し直して命令すると、

『もう向かっている』

 とくろが言葉を返した。

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