第68話

 義則よしのりは言われた通り、正人まさとの手に自分の手を置き、霊力を注ぐことをイメージした。すると、身体の中に流れているものが、正人へと流れるのを感じた。義則は、これかと理解した。暫くすると、

「義則君、もういいよ。ありがとう」

 と正人が言った。義則は正人から手を放して彼を見ると、隼人はやとたちへ翳した手から、白い霊気が流れ出し、二人の身体へと注がれていく。

「おおっ! 凄いな!」

 と義則が感嘆の声を上げると、

「すごいのは君の霊力だよ。こんなにも強くて清らかな霊気を持つ者も、中々いないよ。ほら見てごらん。もう、そろそろ、決着がつくだろう」

 と正人が言った。そちらへ目を向けると、隼人とその父が放つ霊気が白く輝き、更に強く大きくなって、京極きょうごくを襲った。

「あっ!」

 と京極は声を上げて、のけぞるように倒れた。すぐさま、隼人の父、義人よしとが京極を呪縛した。

「終わったな」

 隼人がぽつりと呟いた。

「おお、やったな」

 義則は嬉しそうに笑った。


 間宮の屋敷は、建物は壊れ、庭は荒れ果てて、ひどい有様だった。


 夜が明けて、間宮家の大広間には、京極きょうごく高文たかふみとその配下の者たちが集められた。王座には間宮が座り、京極家の者はその前に平伏している。

「一同、おもてを上げよ」

 間宮が言うと、京極家の者はそれに従い顔を上げた。間宮は罪状を読み上げ、

「これに相違はないか?」

 と聞いた。

「ありません」

 と京極高文が答えると、

「では、刑を処する。謹んで受けよ」

 と間宮が処分を下すと、京極家の者は再び平に伏した。それを見て義則は堪らず、

「いよっ! 名奉行!」

 と声を上げた。

「黙れ! 犬使い!」

 と間宮は義則を一喝したが、口角は上がっていた。この二人の掛け合いは、これからも恒例となるのだった。


 お白州が閉会し、義則、雪兎ゆきと美姫みきあやは四人で、いつものカフェへ向かった。

「おい、美姫。靴ひもがほどけてるぞ」

 と義則が言うと、美姫は、

「あっ、ほんとだ」

 と言って、しゃがもうとするのを、

「しゃがむな。パンツ見えるだろう? 俺がやる」

 そう言って義則が美姫の前に跪くようにして、靴ひもを結ぶのを見て、

『まるでしもべのようだな』

 とあおが言う。すると、

『黙れ、青犬』

 くろが姿を現して、青に凄む。

あお~、よっしーはあたしのしもべじゃなくて、伴侶はんりょだよ?」

 と美姫が言うと、

「なんと⁉」

 あおが驚いて言葉を失った。少しの間をおいて、

あるじ伴侶はんりょとは知らず、これまでの数々のご無礼、平にご容赦を」

 と深くこうべれた。

「気にするな、あお。お前の態度は変えなくていい」

 と義則が言ったが、

あるじの伴侶殿、平にご容赦を」

 と地面に額を付けて、謝った。

「おい、おい。やめろって。そういうのいいから、顔を上げろ」

 義則がそう言って、あおを宥めた。

『ふんっ』

 それを見て、くろが不機嫌そうにそっぽを向いた。

「ほら、みんな、早くおいでよ」

 雪兎がカフェの入り口で待っていた。

「おう! 美姫、行こうぜ。あおくろも小さくなれよ」

 義則が言うと、青と黒は手のひらサイズの子犬になって、店に入っていった。

「今日の間宮もかっこ良かったなあ」

 と義則が嬉しそうに言った。

「よっしー、間宮さんがお奉行様ぶぎょうさまに見えて、凄いお気に入りだよねえ。あの場面を見ると、つい、言葉が出ちゃうもんね」

 と美姫が笑って言う。

「おう、だって、そうだろう? あれはもう、名奉行の名裁きだろう。ついあの掛け声が出ちまうぜ」

「ほんと、義則君、間宮さんの事好きだね」

 雪兎が笑顔で言うと、

「おう! 俺、間宮の事、大好きだぜ!」

 と義則が決め顔をして言う。それを見て、雪兎が笑って、

「今頃、間宮さん、くしゃみしているかもね?」

 と言った。


 一方その頃、間宮は屋敷で事務仕事をしていた。傍らには秘書的な役割を担う世玲奈せれながいる。急に寒気がして、間宮はぶるりと身震いした。

「間宮さん? どうされましたか?」

 世玲奈が聞くと、

「今、急に寒気がした」

 と間宮が答えた。

「それはいけませんね。何か温かい飲み物を用意してきます」

 と世玲奈が言うと、

「いや、大丈夫だ」

 と間宮が答えた。

「いえ、いけません。お身体を冷やしてしまったのでしょう?」

 世玲奈はブランケットを間宮の肩にかけ、

「こうすれば、少しでも温まるでしょう?」

 と後ろからそっと身体を包んだ。二人の身体は密着して、頬が触れ合う。間宮は突然の、世玲奈のバックハグに驚き、心臓は高鳴り、寒気は一気に吹っ飛び、ポカポカと身体は熱を帯びてきた。

「どうでしょうか? 温まりましたか?」

 と世玲奈が聞く。

「いや、まだ寒気が」

 と間宮は答えて、その後三十分ほど、世玲奈のハグを堪能したのだった。

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