第69話

 そして、赤龍使いの早川はやかわ美鈴みすずの屋敷では、

「間宮んとこも酷かったが、ここも相当やられたな」

 と黒龍使いの日野が言った。

「ああ。しかし、これは俺の赤龍が壊したらしい……」

 と美鈴が悲しそうに答えた。蟲毒こどくの虫に寄生されて、術者に操られていた時の記憶がなく、気が付いたら、自分の屋敷が酷い有様だったのだから、美鈴にとっては酷く衝撃的だったことだろう。

「お前のせいじゃない」

 日野は慰めたが、

「俺が不甲斐ないばかりに、みんなに迷惑をかけた」

 と美鈴は項垂れた。

「まあ、そんなに気を落とすな。家は間宮建設が直す、庭はあおいの造園業が直す。その他にかかる資金は俺が援助する」

 と日野さらに慰めた。

「そういう事じゃないんだが……。まあ、ありがとう。俺んとこも金には困っていないから、資金の援助は要らない」

 と美鈴が答えて、

「それより、俺の清子きよこはどこへ行った?」

 と聞いた。

「誰だって?」

 日野が聞くと、

「清楚で可憐で、賢い俺の秘書だ」

 と美鈴が答えた。日野は少し考えて、

「ああ、黒髪、黒服、黒メガネか」

 と思い出して言った。


 その頃、京極きょうごく清子きよこは目を覚ました。

「ここはどこでしょう?」

 と聞く清子に、

「あら、目が覚めましたか?」

 と優しく微笑む美園みその。ここは猫使いこと、池谷家の屋敷。池谷いけたに隼人はやとの姉の美園は、いつもの巫女姿。清子は彼女を見て、ここが神社だと悟った。

わたくしは、何故ここに?」

 清子が聞くと、

「えっと、その~。神社の前で行き倒れていたので、こちらでお休み頂いた? のです……」

 無理のある、とっさの嘘だったが、

「そうでしたか。大変ご迷惑をお掛け致しました」

 清子はそう言って、居住まいを正して頭を下げた。

「いえ、いえ。お構いなく」

 美園は嘘をついた気まずさで、どうにも居た堪れなかった。その時、

「おや? 気が付いたようだね? 良かった」

 と現れたのは、隼人の叔父の正人まさと。美園は嘘をついたことが知られては困ると思い、

「そうなんです。今、お目覚めになられたのです。本当に良かったわ。行き倒れていたので、心配しましたよね?」

 と正人に、目で訴える。

「あ? ああ。そうだね?」

 困惑しながらも、美園の話に合わせる正人。そこへ隼人の父、義人よしとも来て、

「おお、気が付いたんだな? 良かった」

 と言う。

「そうなんだ。行き倒れていた時はびっくりしたよね? 兄さん?」

 と正人が言うと、

「はあ? 行き倒れ? 時代劇じゃあるまいし」

 義人は全く空気の読めない男だった。

「まあ、まあ。兄さん、座って」

 と正人は言って、

「あの、私、お茶を入れて来ますね?」

 と美園はそそくさと、部屋を出て行った。

「あの~? 本当にすみません。ご迷惑をお掛けしてしまって」

 と清子が済まなそうに言うと、

「いや、いや。そんな事はない。もう、身体は大丈夫かね?」

 と義人が聞く。

「はい。ありがとうございます。大変、お世話になりました。遅ればせながら、名乗らせて頂きます。わたくし京極きょうごく清子きよこと申します。早川はやかわ美鈴みすず様の秘書を務めております。一度、早川様の元へ戻り、改めて、このお礼をさせて頂きたく存じます」

 と丁寧に礼を言う清子は、とても礼儀正しく、清楚で可憐で賢い様子が見て取れる。

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