最終話

 一方その頃、隼人はやとあおいの屋敷に居て、二人で仲良くお茶を飲みながら、まったりと過ごしていた。

蒼佑そうすけ様、お身体は大丈夫でしょうか? 夕べは邪気に触れさせてしまって、すみませんでした」

 隼人が謝ると、

「構わないよ。あれくらいの邪気に触れたとて、大したことはない。それより、お前の傍に居られない方が辛い」

 葵はそう言って、隼人をそっと包むように抱き寄せた。

「蒼佑様」

 隼人はうっとりとした表情で、葵を見つめる。二人の視線は絡み合い、口づけを交わす。今日は誰も邪魔する者はいなかった。そのまま二人だけの時間が続いた。


 とある大学では、午前の講義が終わり、お昼休みを取る者、帰る者で構内は、人で溢れていた。そんな中、

しずく!」

 と大きな声で、加藤かとうしずくを呼び止める者がいた。

「大きな声で呼ばないで。目立つじゃない」

 と不満顔で言う雫に、

「だって、この人ごみだぜ? お前が埋もれて見えなくなるところだったんだ」

 と言い訳がましく言う朔太郎さくたろう。この二人、同じ学校に通っている事を知ってから、義則にはいつも二人セットみたいに呼ばれて、いつしか、近しい仲となり、今は恋人同士である。

「なんだよ~? そんなに恥ずかしがるなよ」

 と朔太郎がにやりと笑って言うと、

「ほら、早く行きましょう! この後の予定が詰まっているんですからね!」

 二人はランチに行って、映画を見る約束をしていたのだった。朔太郎は雫に腕を取られ、引っ張られながら大学を出た。雫の傍には、もちろん、影のようにひっそりとしもべの男が付いている。


 その日の夕方、黒熊使いの峰人みねひとが義則の家を訪ねた。

「おっ、みねちゃん。上がれよ」

 と義則が言ったが、

「いや、いい。ただ、お前の犬たちの様子が気になって。夕べ、だいぶやられたからな」

 と、峰人は犬の具合を気遣った。

「ああ、それな! 夕べ、あのあと、日野んちへ行ってさ。あいつんち、癒しの泉があるんだぜ。黄龍と俺の犬たちは、泉に身体をつけて霊力が少し回復したんだ」

 と義則が言った。日野は無類の犬好きで、義則の犬たち総勢百匹に癒されのだった。

「そうか。それならよかった。それだけ聞きたかったんだ」

 と言って、帰ろうとする峰人に、

「もう、帰るのかよ?」

 そう言いながら、峰人の後ろを見ると、黒魔獣戦士の他の四人も来ていた。

「なんだ? お前らも来ていたのか? 上がれよ」

 と言うと、

「いや、犬が元気ならそれでいい」

 と黒牛使いが言った。

「何、遠慮しているんだよ?」

 義則は何度も誘うが、以前、突然来て、義則の母に負担をかけてしまったので、今日は断固として断るつもりでいるので、引くわけにはいかなかった。

「それじゃあ、俺んちの山で魔獣と遊ぼうぜ。それならいいだろう? ほら、行くぞ。くろ

 義則が言うと、

『分かった』

 くろは身体を大きく変化させて、義則を背中に乗せて駆けて行った。有無を言わさぬ義則に根負けして、黒魔獣戦士五人も、魔獣に乗って義則を追いかけていった。

 山に着くと、

「ほら、お前ら、存分に遊べ!」

 義則が言うと、ワオーンッと一声吠えて、くろが走り出す。義則の影から現れた銀色の犬たちも、くろに続いて一声吠えて駆けだした。

「お前らの魔獣も、ここなら自由に遊べるぞ」

 義則が言うと、峰人は黒熊に、

「遊んでいいぞ」

 と言った。黒熊はあるじの許しを得て、森の中を駆けだした。他の黒魔獣たちも同様に、主の許しを得て、駆けて行った。

「楽しそうだな」

 それを満足そうに見つめる義則。その時、聞いたこともない奇妙な泣き声が聞こえた。どこから聞こえたのかと見回し、それが頭上からだと分かり、空を見上げた。峰人たちも気付いて空を見上げる。そこにはキラキラと光の粒を撒きながら、天をかける獣の姿があった。

麒麟きりん

 義則はそれを見るのは初めてだったが、それが麒麟であることははっきりと分かった。


『麒麟は太平の世に姿を現す』

 今がその時なのだろう。


                         了

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魔犬操士 白兎 @hakuto-i

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