第32話

 そこへ何やら、妖しい気配を持った何かが来た。義則よしのりはすぐに気が付き、

「今度は何が来たんだ?」

 とその気配のする方へ視線を向けた。そこには白い紙で出来た人型がいて、こちらへ歩いて来る。

「父の形代かたしろだ」

 隼人はやとがため息交じりで言った。

「隼人! お前、何をしたんだ!」

 怒りのこもった声で人型の紙が言った。

「どうも、俺、高木たかぎ義則よしのりっす。隼人の友達っす」

 義則が人型の紙に言うと、

「これは、どうも。隼人の父です。お見苦しい所をお見せしてしまってすみません。私も今は動けない状態なので、このような形での対面で、大変失礼いたします。隼人が何かしでかしたようで、ご迷惑をお掛け致しました」

 と隼人の父は義則に挨拶と謝罪をして、

「隼人! お前も謝れ!」

 と隼人に怒鳴った。

「まあ、まあ、隼人のお父さん。落ち着いて下さいよ。隼人も反省しているし、火の鳥の封印を解いたの、俺なんで、ほんと、すんませんでした!」

 義則が形代に向かって頭を下げて謝った。

「なんと! やはり、火の鳥だったか。嫌な気配がしたんだ。しかし、今はその気配が消えている。火の鳥は消滅したのか?」

 隼人の父が聞くと、

「いえ、俺の友達のあやが、火の鳥のあるじになって従えているんっす」

 と義則が答えた。それに隼人の父は驚き、

「まさか、火の鳥を契約魔獣として従えることが出来るとは。その方は優れた魔獣操士なのですね?」

 と言った。

「まあ、そうなのか? なんにせよ、被害が無くて良かった。ただ、なんか、ごめんなさい。俺が間違えて火の鳥を解放してしまって、こんなことになって、今はあやの使い魔獣だから、ここへ返せなくなったんすよ」

 義則がすまなそうに言うと、

「それは構いません。私のご先祖様があれを封印したが、二度と暴れなければ、誰が封印しようと、誰が使い魔獣として従えても、問題はありません。むしろ、ありがたいくらいですよ。封印は永遠ではないからね。いつか解ける時が来るのだから。あのまま封印していても安全とはいえないのですよ」

 と隼人の父は言った。

「そうっすか。そう言ってもらえてよかったっす。ところで、隼人のお父さん、何で動けないんすか?」

 と義則が聞くと、

「それは……」

 と答えにくそうにしていると、

「親父は怪我をして入院している。近所の飲み屋でお酒を飲んで、酔っ払って自転車に乗って帰る途中で転んで、膝の皿を割ったんだ。暫く、宮司の仕事は出来ない。だから、大学を卒業したばかりの俺が、親父の代わりに宮司を務めているんだ」

 と隼人が答えた。

「え? 隼人のお父さん、大丈夫ななんすか? 歩けなくなったんすか?」

 義則が聞くと、

「面目ない……」

 と隼人の父は、消え入るような声で答えた。

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