第31話

 繁華街での一騒動、魔獣の見えない者たちはざわついていたが、何が起こったのか全く分からず、義則よしのりたちは騒ぎに紛れて、その場をあとにした。

あやちゃん……」

 雪兎ゆきとが絢に声をかけて、

「その……。あまり、危険なことはしないで欲しい。僕にとって、君は大切なんだ。君が僕から離れて火の鳥に近付いた時、君を失うかもしれないと、胸が張り裂ける思いだったよ」

 雪兎がいつになく感情的に声を震わせて言った。

「ごめんなさい、雪兎君。でも、どうしてもこの子を助けなくちゃと思ったのよ」

 絢が申し訳なさそうに答えた。

「うん。分かっている。火の鳥は君と相性が良かったんだ。こうなることは必然的だった。だから、君を責めるつもりはないよ。ただ、僕の気持ちを知って欲しい。君の事がとても大切なんだ」

 雪兎は大切なんだという事を二度、口にして絢に伝えた。その強い想いを知り、絢は嬉しそうに、

「ありがとう」

 彼に微笑みを向けた。


「絢、良かったな。お前もこれで魔獣操士だ」

 義則は嬉しそうに言って、

「あっ、そうだ! 火の鳥を捕まえてくるって約束してたんだ! どうしようかな? あいつ、すげー心配しているだろうな?」

 と呟いてから、

「俺、ちょっと行ってくる。美姫みきはまっすぐ帰れよ。あお、頼んだぞ」

 と美姫とあおに言った。

「うん」

 と美姫が返事をして、あおは、

『ふんっ』

 と鼻を鳴らしただけだった。


「雪兎、絢もまたな!」

 と二人に言って、

くろ、急いで隼人はやとの所へ戻るぞ」

 とくろに言った。

『分かった』

 くろが答えて、義則を背中に乗せて、隼人の待つ神社へと急いだ。

「やっぱ、早いなあ! お前」

 義則がくろの背中で嬉しそうに言うと、

『俺を便利な乗り物として使うな』

 と言葉が返って来た。


 隼人の神社へ着くと、隼人が黒猫を従えて待っていた。

「遅いぞ!」

 隼人は言ったあと、

「火の鳥はどうした? やはり、お前じゃ捕まえられなかったのか?」

 と見下すように言った。

「それがさあ、くろが捕まえたんだが、あやが放してくれって言ってさあ」

 義則の、のらりくらりと、的を射ない話し方に、隼人は聞くに堪えず、

「要するに、お前は火の鳥を捕まえてこなかったという事だろう? その責任はどうするつもりだ? 被害はどれくらいだ?」

 と義則の言葉を遮って、詰め寄った。そんなやり取りに気付いた美園みそのが出て来て、

「高木さん、中でお話しませんか?」

 と義則を社務所へ通した。隼人はこの時の姉の行動を止めはしなかった。


「それで、高木さん。火の鳥はどうなったのでしょうか?」

 美園が聞くと、

「ああ、それな。俺の友達のあやがさ、くろが捕らえた火の鳥が可哀想だって言ってさ。くろから火の鳥を解放して、傷を癒して、今はあやあるじになっている」

 と義則が答えた。

「はあ? なんだその突拍子もない話は? 火の鳥だぞ! 人に服従するわけがないだろう!」

 隼人は義則の話が信じられないようで、声を荒らげて否定した。

「隼人、黙りなさい」

 と美園は言って、

「高木さん、それをあなたが確認しているのですよね?」

 と義則に聞く。

「ああ、間違いなく、火の鳥はあやの契約魔獣になった。だから、町も燃えていないし、誰も怪我はしていない」

 義則が答えると、美園は深く息をつき、

「それなら安心しました」

 と柔和な表情で言った。

「ふんっ。こいつの話なんか信用できるかよ」

 隼人が言うと、美園が隼人へ諫めるような視線を向けた。隼人は、また母が憑依したのかと思い、両手で防御の姿勢を取った。

「お母さんは下りて来ていないわ。でも、これからは、私が母の代わりにあなたを諫めます」

 と強い口調で言った。それはまるで、本当に母のようだった。

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