第30話

『遅い!』

 くろはそう言って、義則よしのりを振り返り、

『俺に乗れ』

 と言って、義則を咥えて背中に乗せた。そして、速度を上げて火の鳥を追う。

「おっ。早いぜ! どんどん行け!」

 義則は風を切って走るくろの上で上機嫌に拳を上げた。

『手を放すな、落ちるぞ』

 くろはそう言って、はしゃいでいる義則を注意した。

「おう!」

 義則は素直に従って、くろの身体にしっかりと掴まった。暫くすると、赤い炎を燃やしながら飛ぶ火の鳥の姿が見えてきた。

「あれだな?」

 義則が言うと、

『そうだ』

 くろが答えて、更に速度を上げた。火の鳥は義則の住む町の繁華街へ向かっていた。

「やばいぜ。早く止めねえと」

 義則は危機感を覚えた。街には多くの人たちがいる。そして、とうとう繁華街の上まで来てしまった。火の鳥は人々のいる通りへ向かって降りていこうとした。その先には、雪兎ゆきと美姫みき、そしてあやがいた。

「雪兎! そいつを止めろ! 火の鳥だ!」

 義則が叫ぶと、雪兎はすぐに頭上を見上げ、それを確認すると、白龍を出して火の鳥に攻撃した。しかし、火の鳥はそれを躱して宙を舞う。火の鳥の羽搏きは炎を生み、火の粉が辺りを燃やした。魔獣が見えない者たちは、何が起こったのか分からず、突然の炎に怯えて、

「火事だ!」

 と言って、逃げ惑う。

はく

 雪兎が声をかけると、白龍は炎を消していく。その間にも火の鳥は炎をまき散らした。

「やめろ!」

 義則が追い付くと、くろを火の鳥へ向けて放った。

「行け! あれを捕まえろ!」

 火の鳥はくろを躱して飛ぶ。

「お前らも出て来い」

 義則は、銀色の犬たちも出して、連携して火の鳥を追いこむ。美姫の魔獣の青犬あおいぬは、ただ、美姫の傍に居て、彼女に被害が及ばないようにしっかりと守っていた。


 火の鳥は、銀色の犬たちに追い込まれ、くろに捕らわれて地に落ちた。火の鳥の首元にくろが食らいついている。それを見て、絢は思わず駆け寄った。

「絢ちゃん! 近付いちゃ駄目だ!」

 いつも冷静な雪兎が叫んだ。けれど、絢は止まらなかった。

くろ、殺さないで。可哀想よ。この子は一人なのに、みんなで寄ってたかって」

 そう言って絢は、火の鳥に近付いた。

「絢、近付くなよ。そいつは街を一日で燃やし尽くしたんだ。お前も丸焦げにされるぞ」

 義則もそう言って、絢を止めようとした。

「怯えているのよ。もう大丈夫よ。彼らにはこれ以上、手出しはさせない。くろもこの子を放してあげて。お願いだから」

 絢が言うと、くろは素直に火の鳥から牙を抜いた。

「ありがとう、くろ

 絢はくろを優しく撫でて、力なく地に横たわる火の鳥に触れて、

「ごめんなさい。こんなに傷つけてしまって」

 と言って涙を流した。すると、絢から霊気が流れ、火の鳥の傷を癒した。そして、火の鳥は身体を起こし、絢に深く頭を下げ服従の姿勢を示した。


『火の鳥が絢に服従した』

 くろが言うと、

「それはどういう意味だ?」

 義則が首をかしげて聞く。

『魔獣契約が成立し、火の鳥は絢をあるじと認めた』

 くろが答えた。

「え? くろ? この子、私の契約魔獣になったってこと?」

 絢が驚いて聞くと、

『そうだ』

 とくろがはっきりと答えた。

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