第33話

 火の鳥の件が解決した事を安堵し、酔っ払い運転の件が他人に露呈した気まずさもあり、隼人はやとの父の形代かたしろは役目を終えたとばかりに燃えて跡形もなく消えた。

「隼人、話しは変わるが、お前、何で魔獣狩りをしていたんだ?」

 と義則よしのりが聞くと、隼人は姉をちらりと見て、

「俺の部屋で話そう」

 と義則を自室へ案内した。姉に聞かれたくないのだろう。

「それで、どんな理由なんだ?」

 と義則は聞いたが、隼人の部屋の壁には、アイドル張りの綺麗な顔の人物の写真が何枚も貼られていたのか気になって、部屋中を見回した。

「俺が勝手にした事だ。彼には関係ない」

 部屋に貼られた写真を見て隼人が言った。義則は写真の人物をどこかで見たような気がしていたが、はっとして思い出した。

「ああっ! 青龍使いだ!」

 義則が声を上げた。

「大きな声を出すな」

 と隼人は義則を制した。

「あっ、悪い。つい、声が出た。それで、お前は青龍使いの為にやったのか?」

「違うと言っている」

「そうか。お前、青龍使いが好きなんだな」

「……」

 隼人はそれを否定しなかった。

「まあ、奪った魔獣はみんなあるじのもとへ帰って行ったし、服従の契約も俺が上書きしたし、お前も反省しているんだから、責める理由もない。ただ、美園みそのから聞いたんだが、龍使いはみんな仲が悪いらしい。大きな戦いが起こるかもしれない。それには青龍使いも白龍使いも当事者として関わることになるだろう。白龍使いの雪兎ゆきとは俺の友達だ。俺も黙って見ているつもりはない。お前だってそうだろう? 大切な人が傷つくのは嫌だろう? 争いが起こらないことが一番いいけど、そうもいかないだろう。俺とお前も友達になったんだから、俺たちは仲良くしていこうぜ」

 と義則は笑顔で、隼人の肩に手を回した。

「いつ、俺がお前と友達になったんだ?」

 隼人が不満顔で言うと、

「なんだよ、お前も天邪鬼あまのじゃくか? 俺と友達になった事、本当は嬉しいくせに」

 と義則はにやりと笑う。

「はあ? 嬉しいわけがないだろう。むしろ恥だ。お前の様な軽薄な奴と友達だなんて」

 と隼人が言葉を返したが、友達であることを否定はしなかった。義則には人の霊魂が感情によって色を変えるのが見える。言葉とは裏腹に、隼人の霊魂の色は喜びを表していた。


「隼人、今度、青龍使いに会いに行こうと思う。奴はどこに住んでいるんだ?」

 義則が聞くと、

「ふんっ。お前には教えない。そして、あの方を奴と呼ぶな、失礼だ!」

 と隼人が不機嫌そうに言った。

「なら、奴の名前を教えてくれよ。名前が分からないと呼び名に困るだろう」

 青龍使いの事を、義則にこれ以上『奴』と呼ばせたくない隼人は、仕方なく彼の名を教える事にした。

「あの方のお名前は『あおい蒼佑そうすけ』様という。これからはあおい様と呼べ」

 と隼人が言うと、

「なんで、呼び方まで決められなくちゃならないんだ? 呼び方は俺が決める、まずは会ってみないとな」

 と義則が言葉を返した。

「会わせるわけがないだろう」

 隼人が言うと、

「それなら、俺が一人で会いに行こう」

 義則が言い。

「駄目だ。それも許さない」

 と隼人が言う。きっと、隼人が行くなと言っても、義則はあおいに会いに行くだろう。一人で行かせるわけにもいかず、

「分かった。俺も一緒に行くから、絶対に一人では行くなよ。約束だからな」

 と隼人は義則に念を押して言った。

「おう。約束だぜ」

 義則は嬉しそうに答えた。

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