第34話

 数日後、隼人はやと義則よしのりは、青龍使いのあおい蒼佑そうすけに会いに行った。

「おおっ! さすが、青龍使いだな」

 葵の家は塀で囲まれていて、大きく強固な門構えに圧倒されて、義則が感嘆の声を漏らした。そんな義則を他所に、隼人は慣れた手つきで、古い門にある不似合いな近代的なインターホンを鳴らす。すると、守衛の警備員がカメラで隼人を確認して門を開けた。広い敷地には庭が広がり、和館と洋館が見える。

池谷いけたに様、蒼佑そうすけ様は洋館にて、お待ちでございます」

 黒服の男がそう言って、隼人と義則を案内した。

「きょろきょろするな。みっともないぞ」

 隼人が義則に注意した。

「いや、だって、すげー広いし、建物が幾つもあるし、あっちなんか、森だぜ? 興味湧くだろう普通」

 義則が言うと、

「お前は子供か? 少し落ち着け」

 と隼人は義則をたしなめ、彼の胸元にいる黒を見ると、小さな体をポケットに収め、前足と顔を出していて、義則と同じようにきょろきょろと落ち着きなく辺りを見ている。ここは魔獣にとっても興味深いようだ。特に空気が浄化されていて、都会の人臭さが全く無いのだ。

「お前の犬も同じか」

 と隼人は呆れて呟く。

「ん? 何か言ったか?」

 義則が聞くと、

「何でもない」

 と隼人は答えた。しばらく歩いて、洋館に着くと、

「どうぞ、こちらへ」

 と黒服の男が洋館の玄関へと導く。

「やあ、来たね。さあ、入って」

 二人を出迎えたのは、隼人の部屋で見た写真の男、葵蒼佑だった。

「蒼佑様、お久しぶりです」

 と言って、隼人が深く頭を下げた。

「隼人、本当に久しぶりだね。来てくれて嬉しいよ。挨拶はいいから、早く入ってよ。君も、どうぞ」

 と見た目通りの爽やかな好青年の印象を受けた義則は、

「はじめまして。俺、高木義則っす。よろしくっす」

 と自己紹介して、頭を下げた。それを見て、

「お前は、正しい敬語を知らないのか?」

 と隼人は義則に注意した。

「え? 俺の敬語、どこか間違っているのか?」

 隼人は深いため息をつき、

「もういい」

 と諦め顔をすると、

「面白い子だね。隼人がそんな顔をするのを初めて見たよ。お茶を用意しているからどうぞ」

 と葵は笑顔で二人を客間へ招いた。


「隼人が友達を連れてくるのは初めてだね」

 と葵は隼人に笑顔を向けた。

「すみません。どうしても蒼佑様に会いたいと言うので、連れてきました」

 隼人が言うと、

「そう、僕は嬉しいよ。隼人が会いに来てくれる理由が何であってもね」

 葵が言うと、

「すみません。このところご無沙汰してしまい……」

 隼人が言い澱む。

「うん。淋しかったんだよ。お前が来てくれないとつまらない。何があったか聞こう。さあ、話してよ」

 葵に促されると、隼人は覚悟を決めて、自分のしたことを話した。


「うん。知っていたよ。お前が魔獣狩りをしている事。きっとそれは僕の為だったんだろう? でもね、僕は王座なんて望んではいない。お前にそう話したじゃないか。黄龍の勢力を削いで、赤龍、黒龍をけしかけて戦わせるつもりだったんだろう? まあ、お前が嗾けなくても、彼らはいずれ王座をかけて戦うだろう。お前が手を汚すことはない」

 葵は全て知っていたようだ。

「蒼佑様、ご迷惑をお掛けして、すみませんでした」

 隼人はそう言って、葵に頭を下げた。

「いいよ。迷惑は掛かっていないし、お前のことが問題になっても、僕はお前の味方だ。心配は要らないよ」

 と葵は隼人に優しく微笑みを向けた。そんな二人の会話とその世界に義則は入っていけずに、ただ傍観していた。

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