第35話

「ところで、高木さん。僕に会いたいという事でしたが、どのような御用件でしょうか?」

 と、突然、あおいに声を掛けられ、

「あっ、そうだった。あんたに聞きたい事があってさ」

 と義則よしのりが言いかけると、

「お前、蒼佑そうすけ様をそんな風に呼ぶな」

 と隼人はやとが注意した。

「いいよ、隼人。高木さん、続けて」

 葵が隼人を制して、義則に話すよう促した。

「俺はさ、みんなに仲良くして欲しいんだ。王座とか階級とか身分とか、誰が決めたんだ? そんなもの必要ないだろう? 五龍会って、龍使いが仲良くする会じゃねえの? 仲良くないなら、そんな会も要らねえだろう? あんただって、五龍会の一人だけど、それ、どう思ってんの? 他の魔獣操士の中には、五龍会を嫌っている奴もいる。このままじゃ、争いが起こるだろう。俺は誰かが傷つくのを見たくないし、俺の友達が傷つくのはもっと見たくないんだ。だからといって、俺に何が出来るわけでもないけどさ。あんたなら、どうにか出来るのかって思って。俺の言いたい事、分かってもらえたか?」

 義則が言うと、

「うん、分かった。僕も争いは嫌いだ。そして、隼人を巻き込みたくないし、傷付くのを見たくはない。だから何もしない。これで、君の聞きたい事の答えになったかな?」

 と葵が隼人を見て答えた。

「そうか、分かった。何もしないことが、大切な人を守る一番の方法なら、それがいいと思う」

 義則は落胆したわけではなかった。龍使いの葵が動けば、彼の大切な人、隼人が危険にさらされるのは目に見えている。葵と隼人が見つめ合うのを見て、

「そうか、お前ら。お互いに想い合っていたんだな」

 と義則が笑みを浮かべて言うと、

「お前! 何ていう事を!」

 と慌てて隼人が言うのを、葵が手で制して、

「そうだよ。僕と隼人はお互いに想い合っている。隼人、おいで」

 葵が言うと、隼人は葵の傍へ行き跪いた。

「それはしないで、ここにおいで。いつもお前は僕を神のように崇めるけど、僕は神じゃないし、お前はしもべじゃない。僕とお前は対等だよ」

 そう言って、葵は隼人を自分の膝の上に座らせた。隼人は頬を赤らめ、

「蒼佑様……。あいつが見ています」

 と恥ずかしそうに言う。

「構わない。誰に憚る必要がある?」

 葵がそう言って、隼人を包むように優しく抱きしめて、お互いの頬を合わせた。そんな仲睦まじい二人を前に、義則は嬉しそうに、

「ほんと、お前ら仲良しだな。いいことだ。俺の用事も済んだことだし、くろ、帰ろうぜ。それじゃあ、お前ら、またな!」

 そう言って、葵の家をあとにした。


「ところで、くろ。ここはどこだ? どうやって帰ればいいんだ?」

 隼人の所からここまで、タクシーで来た義則には、自分がどこにいるのか分からなかった。

『ふんっ、面倒臭い奴だ。乗れ』

 結局、くろの背中に乗って、家まで帰ったのだった。

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