第11話

 翌朝、義則よしのりは母に起こされる前に起きてきた。

「あら、義則。今日は早いのですね?」

「おはよう、母さん。父さん、じいちゃんもおはよう」

 元気に挨拶すると、

「今日は雪でも降るかもな?」

 なんて祖父が笑った。その隣では祖母も微笑む。

「ばあちゃん、おはよう。あとで線香あげるよ」

 義則は祖母に笑顔を向けたあと、

「いただきまーす」

 と言って、朝食を食べ始めた。昨日よりも三十分も早いのだから、家族みんなは呆気に取られていた。食事を済ませ、使った食器は自分で洗い、身支度をした義則は、

「行ってきまーす」

 と言って、玄関へ向かったが、

「あっ、忘れてた!」

 と戻って仏間へ行き、祖母に線香をあげて、

「ばあちゃん、行ってきます」

 と声をかけた。

『はい、行ってらっしゃい』

 祖母は微笑んで言った。


 義則は家を出ると、隣の美姫みきの家に行った。

「おはようございます! 美姫を迎えに来ました!」

 義則が言うと、

「あら、早いのね? 美姫は今支度をしているところよ」

 美姫の母が出てそう言った。

「そうっすか。俺、上がってもいいっすか?」

「いいわよ。どうぞ上がって」

「おじゃましまーす」

 義則は脱いだ靴を揃えると、階段を上がって、美姫の部屋へ行った。

「美姫、迎えに来たぞ」

「よっしー、早いじゃん」

 扉の向こうから美姫が返事をした。

「入っていいか?」

「いいよ」

 義則は美姫の返事を聞いて扉を開けて入ると、美姫はちょうど、制服のシャツのボタンを留めているところだった。

「今日の服装チェックだ」

「はい、はい」

 美姫はシャツの裾をスカートに仕舞い、スクールリボンを付けて、

「どう? これでいいでしょ?」

 文句はないだろうと言わんばかりに、両腕を広げて得意顔をした。義則はそんな彼女の制服姿をじっくりと見た。シャツのサイズも昨日より大きめになったようで、胸のあたりもそれほど窮屈ではなく、へそも出ていない。スカートの丈も少し長くなっていた。

「よし、これなら合格だな」

 と満足げに言った。

「よっしー、毎朝、服装チェックに来るつもりなの?」

「おう。そのつもりだ」

 と義則は答えたが、次の日からはいつものように母に起こされるのだった。

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