第28話

 数日後、義則よしのり峰人みねひとと二人で黒猫使いを訪ねた。

「こんちわー」

 義則が声をかけると、社務所から神職の男性が出て来た。そして、義則たちを見ると嫌な顔をして、

「何か用ですか?」

 と言った。

「お前が黒猫使いか? 俺は高木義則たかぎよしのりだ。お前の名前はみねちゃんに聞いた。池谷隼人いけたにはやとだな? お前に聞きたい事がある」

 と義則が言うと、

「私は忙しいので、今は対応できません」

 男はそう言って、社殿へ向かった。

「今じゃなかったら、いつならいいんだよ?」

 義則が男の背中に向かって言ったが、返事は返ってこなかった。その騒々しさに気付いた巫女姿の女性が社務所から出て来て、

「大変申し訳ございませんが、宮司はこれから、昇殿参拝の儀を行いますので、宜しかったら、お話は私お伺い致します」

 と丁寧な対応をした。

「ごめん。あんたじゃ、意味ないんだ。どうすれば、あいつと話せるんだ?」

 義則が聞くと、

「お話がしたいのでしょうか? 参拝ではなく?」

 と首を傾げた。

「あんた……。普通の人?」

 義則が聞くと、それまで黙っていた峰人が義則の前に出て、

「お前も魔獣操士だな」

 と鋭い視線を巫女に向けた。

「そうですが、争うつもりはありません。私たちは神に仕える者。人を傷つけたり、殺める事はしません」

 と巫女が答えると、

「なら聞くが、黒猫使いが白蛇しろへび使いと蜥蜴とかげ使いを虐げたのは許されるのかよ」

 義則が言った。

「隼人がそれをした証拠は?」

「俺が確認している。黒猫使いは服従の契約を課した。それを俺が上書きしたんだ」

 それを聞いた巫女の顔は、血の気が引いていったように青白くなった。

「まさか……。あの子がそんなことを」

「あんた、知らなかったのかよ。それで、あんたはあいつとはどういう関係なんだ?」

 義則が聞くと、

「私は隼人の姉です。どうぞ中へ」


 二人は畳敷きの部屋へ案内された。

「座って下さい。隼人は一時間ほど戻ってきません。その間に、お話をお聞かせください。まだ名乗っておりませんでしたね。私は池谷美園いけたにみそのと申します」

 と美園が名乗った。

「俺は高木義則。こいつは」

 と義則が言いかけると、峰人はそれを制し、

「俺は阿仁峰人あにみねひと

 と自ら名乗った。

「俺は犬使いで、こいつは黒熊使い。俺の友達の白蛇使いのしずくと、蜥蜴使いの朔太郎さくたろうはお前の弟の黒猫使いに、服従の契約を課せられ、魔獣狩りをさせられていたんだ。なんで、そんなことをしたんだ?」

 義則が聞くと、美園は少し考えて、

「隼人が魔獣を狩る理由……。あの子にとって、何の利益もないわ。むしろ、神職の心得に反する愚行。許されるものじゃないわ。ただ、隼人は、青龍を神のように崇めています。とても強い想いを寄せているのです。青龍使いの命令もしくは、彼の為になると思っての事なら、隼人にとってそれは、正当な行為なのかもしれない。いずれにせよ、本人に聞かなければ分かりません。でも、素直に話さないでしょうね。青龍使いに迷惑がかかるようなことはしたくないでしょうから」

 と自分の考えを述べた。

「青龍使いの為って、どういう意味だ? 青龍は五龍会じゃないか。なんで、魔獣狩りが青龍使いの為になるんだ?」

 義則が聞くと、

「あなたは知らないのでしょうね? 五龍会というのは黄龍の為にあり、黄龍を王とするもので、青龍使いにとっては、屈辱的な組織なの。青龍だけじゃないわ。他の龍使いにとっても同じよ」

 と美園が答えた。

「なんだよ。龍使いたちはみんな仲が悪いってことかよ」

「そのようだな。それなら、俺たちが五龍会を潰すまでもなかったな」

 と峰人が呟いた。

「あなたたち、五龍会を潰そうとしていたの?」

 美園が聞くと、

「まあ、あんな組織、俺も気に食わねえしな」

 義則は五龍会を潰す気はないが、否定もしなかった。大きな戦いが勃発すれば、五龍会も必然的に壊滅するだろう。

「それで相談だが、黒猫使いに魔獣狩りを止めさせたいんだ。協力してくれよ」

 義則が言うと美園は、

「私の言うことを聞く子じゃないのよ。でも、ちゃんと話してみるわ」

 と答えて、

「今、行っている昇殿参拝が終われば、少し時間があります。その間に話してみましょう。あなた方もお時間は大丈夫でしょうか?」

 と続けた。

「もちろんだぜ。俺たちはそのために来たんだからな。何時間でも待つぜ。なあ、みねちゃん」

 と義則が峰人に言った。

「いちいち、こっちに振るな。そして、あまりそのあだ名で呼ぶな」

 と顔を背け、不満顔で言った。人前でみねちゃんと呼ばれたことが、恥ずかしかったようだ。

「何、お前、恥ずかしがってんだ?」

 義則が揶揄って峰人の顔を覗き込んだ。

「仲がいいのですね」

 美園は、そんな二人を微笑んで見つめた。

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