第27話

「そうだぞ、遠慮しないでくれよ」

 義則よしのりは魔獣操士たちに声をかけて、

「いただきまーす」

 と元気に言って、みんなで楽しく食事を始めた。これだけ多くの魔獣操士が集まり、父と祖父は少々、興奮気味に、彼らの魔獣について質問した。

「君たちの魔獣は、みんな黒いんだね。うちくろもいいお友達になれるね」

 父はそう言って、くろに優しい眼差しを向けた。

『……』

 くろはどう答えたものかと考えて、何も答えなかった。

「ごめんね。くろはちょっと恥ずかしいみたいだ」

 父は何も答えないくろの態度を、客人に謝った。それをくろはよく思わないようで、子犬の姿になって、義則の膝に乗った。

くろ、俺に甘えてかわいいなあ」

 義則はそう言ってくろの頭を撫でた。

『ふんっ』

 くろは不機嫌そうに鼻を鳴らしたが、小さな尻尾はパタパタと動いていた。

「嬉しいくせに」


 黒い魔獣使いたちの名はそれぞれ、黒熊使い、阿仁峰人あにみねひと、黒牛使い、宇和島猛うわじまたける、黒豹使い、青島清あおしまきよし、黒鹿使い、林仗助はやしじょうすけ、黒狐使い、松本健司まつもとけんじと言った。


 食事を終えて、

「お前らにもう一度聞くけど、何で魔獣狩りをしていたんだ?」

 義則が聞くと、

「俺たちは魔獣操士のヒエラルキーを崩す事を目的としている」

 と黒熊使いの峰人が答えた。

「なんだ? そのラルキ―とかいうのは?」

「ヒエラルキーだ。階級制度とか身分制度の事だ。龍使いがまるで王族のように君臨しているのが、俺たちは気に入らない。それを崩すことが目的だ。こんな理不尽な階級制度が、古代から続いていたんだ。そんなの、許されないだろう。まあ、お前もあちら側なのだろうが」

 峰人が、最後は落胆したように言った。

「あちら側って何だよ? 俺の魔獣は犬だぜ?」

 義則が言うと、

「お前は白龍と一緒にいた。それに、黄龍に頼まれて魔獣狩りを狩っているんだろう?」

 峰人が言った。

「違うぜ。俺と雪兎ゆきとは友達だから一緒にいる。それと、これは誤解するなよ。黄龍の間宮の頼みを聞いたんじゃない。魔獣を奪われたら魔獣操士が可哀想だろう? だから、魔獣狩りを止めさせているんだ。言っておくが、俺も間宮は好きじゃないぜ」

 義則の言葉に峰人は、

「そうだったのか。それが本当ならいい」

 と言った。

「お前、俺の事、信じていないのか? 友達なのに淋しいじゃないか」

 義則はそう言って、峰人の肩に手を回して、

「仲よくしようぜ、みねちゃん」

 と彼の頬を指でつついた。

「つつくのはやめろ。そして、みねちゃんと呼ぶな」

 峰人は不満そうな顔をして言ったが、

「なんだよう、みねちゃん。照れてんのか?」

 と義則は嬉しそうに言った。

「だからっ。もういい、何とでも呼べ」

 峰人は相手をするのも面倒になって、そう言った。それからは『みねちゃん』と呼ばれるようになった。


「それで、みねちゃん。黒猫使いの事は知っているのか?」

 義則が聞くと、

「知っている。だが、関りはない」

 と峰人が答えた。

「何処に住んでいて、何ていう名前だ?」

「東の町に住んでいて、名前は池谷隼人いけたにはやと。年齢は知らない。住んでいる住所は知らないが、大体の場所は分かる」

「そうか、それじゃあ、会いに行こう」

 義則が言うと、

「それは俺に同行を求めているという事か?」

 峰人が聞いた。

「もちろんそうだろう。みねちゃんが案内してくれなきゃ行けねえじゃん」

 それを聞いて峰人は、

「そいつに会ってどうするんだ? 戦って倒すのか?」

 と聞くと、

「違うぜ。話しを聞くんだ。何でしずくやさくちゃんに魔獣狩りをさせたのかを」

 と義則が答えた。

「それは敵を知るためなのか? それなら黒猫使いに接触するのは必要なことだな。あいつが一人でやっている事じゃない。背後にいる者をあぶり出してやろう」

 峰人は、面倒な事に巻き込まれたが、義則に協力することで、魔獣操士のヒエラルキーを崩せるかもしれないという、希望を見出したのだった。

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