第6話

 雪兎ゆきとと二人だけになると、

「お前、大胆だな。本当に交際を申し込むなんて」

 と義則よしのりはにやりと笑った。

「え? だって、君が言ったんだよ。絢ちゃんが誰かに取られる前に、今、交際を申し込んだ方がいいって」

 雪兎の色白の頬が赤く染まった。

「お前、照れてんのか? かっわいいの!」

 義則は笑って、彼の頭を撫でた。

「やめてよ、恥ずかしいから。あんまり僕を揶揄わないでよ」

 雪兎は義則の手を払いのけると、彼のブレザーの中に隠れている小さなモノを見つけた。

「君、服の中に子犬を連れて来てるんだね。気配を消しているから分からなかった」

「え? お前、こいつが見えるの?」

「うん。僕も魔獣操士だからね」

「それ、他の奴には言うなよ」

 義則は声を潜めて言った。

「ここ、監視カメラもあるし、声も拾われる。まあ、今のところ、敵に遭遇したことはないけどな。気を付けろって、じいちゃんに言われているんだ。ところで、お前の獣は?」

 義則が聞くと、

「ここだよ」

 と首から下げた翡翠のペンダントを見せた。

「気配は感じなかったでしょ?」

 雪兎が笑みを見せて言った。その時、部屋の戸がノックされて、

「失礼します。お料理をお持ち致しました」

 先ほど受付にいた辰弥と、他のスタッフが料理を持って入って来た。ここの名物ハニトーに、ランチメニューでそれぞれが選んだメイン料理とサラダに、チキンとポテト。

「おう、辰兄たつにい。ありがとう。受け取るよ」

 義則が料理を受け取ると、

「失礼します」

 と言って、部屋を出て行った。

「ほんっと、辰兄、仕事の時は礼儀正しいなあ」

 と言ったあと、

「魔獣操士について、外では話すなって注意されているんだ。この話の続きは俺んちでな。今度、遊びに来いよ。今日でもいいぜ」

 義則がそう言った時、ドアが開いて、

「なに、なに? 二人で何話していたのよ?」

 美姫が探るような眼で義則の顔を覗き込んだ。

「雪兎にさ、俺んちへ遊びに来いって誘ったところだよ」

「え~、ずる~い。あたしも行く~。絢も一緒にね」

 美姫が甘えた声で言うと、

「分かった、分かった。今度誘うよ」

 義則は笑いながら、美姫の要求をあっさり承諾した。雪とはそれを横目で見て、小さくため息をつく。

「やったー! 約束だからね。さてっと、先にご飯食べましょう。おなか空いた」


 四人は食事をしながら、美姫たちが持って来たボードゲームに興じた。単純で深く考える必要のない双六。プレイヤーは魔法使いとなって、修行の旅をするものだった。他愛のないおしゃべりをしながら、あっという間に三時間が経った。

「雪兎の家はどっちだ? 俺たちはあっちへ帰るけど?」

 義則が言うと、

「僕は電車で帰るから、駅へ行くよ。ところで駅はどっちかな?」

 と雪兎は答えた。

「お前、迷子になるなよ? 駅まで送って行こうか?」

 義則が言うと、

「大丈夫。スマホで地図を見ながら帰るよ」

 と雪兎は笑顔で返した。

「そうか? でも、ここから駅まで歩くと結構な距離だぜ? 俺んちまで歩けば十分だ。今日は父さんがいるから、駅まで送って行くぜ。父さんがな」

「え? そんなの悪いよ」

 雪兎が遠慮すると、

「なんだよ。遠慮するなって。友達なんだからさ。父さんと母さんも喜ぶぜ。俺の新しい友達を紹介したらさ。ほら、行くぞ!」

 義則は雪兎の肩に手を回して、ご機嫌に歩き出した。

「ほんっと、よっしーったら強引なんだから。でもね、あたしはそんなよっしー好きだよ。雪兎君も早く馴れてね」

 美姫はそう言って、

「ほら、絢も行こう」

 と彼女の手を取って、義則たちのあとを追いかけるようについて行った。彼らの家はわりと近く、幼稚園からの付き合いだった。

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