第5話

「おう! それじゃ行こうぜ」

 四人はフリードリンクの飲み物を持ってから、部屋の番号を確認して入った。いつもこのカラオケ店を利用している三人は慣れたものだが、初めての雪兎ゆきとには分からなかった。先ほどの説明を聞いていて、カラオケ店に来て、義則よしのりは歌わないプランを選択していたのだった。

「カラオケで歌わないの?」

 雪兎が聞くと、

「お前、歌いたかったの? 歌うタイプには見えないけど?」

 義則が首をかしげて聞いた。

「いや、歌いたいわけじゃないから。逆に良かったよ。きっと歌わないから」

 雪兎はちょっと恥ずかしそうに、はにかんだ笑顔を義則に向けた。

「さあ、座って。あたしとよっしーはこっち。あやと雪兎君はそっちね」

 美姫みきがあからさまに二人を近づけようとしている。それを絢は、恥ずかしそうに頬を赤らめて、少し抗議を込めた眼で美姫を見たが、

「ほら、座って。まずは乾杯でしょう? 雪兎君が、あたしたちのお友達になった事を祝して、カンパーイ!」

 美姫は元気よく乾杯の音頭を取った。


「それじゃ、これから質問ターイム! ねえ、雪兎君、あなたからあたしたちに質問して。何でも答えるから」

 美姫の発言に、

「おい、おい。勝手だなあ。何でも答えるって、答えられない質問されたらどうするんだよ?」

 義則が抗議した。

「あら、よっしーじゃあるまいし、そんな質問を雪兎君がするわけないじゃない」

 美姫の言う通り、雪兎はきっと答えられないような質問はしないだろうと、義則は納得した。

「まあ、そうだろうな。よし、雪兎、何でも聞け」

 義則が言うと、みんなの視線が雪兎に集まり、その期待に戸惑った。これといって、聞きたい事もない雪兎には、何を聞けばいいのか分からない。

「えっと~。そうだな? 美姫ちゃんのその髪はパーマをかけているのかな? それとも自然なものなのかな?」

 それほど気になったわけでもないが、美姫の髪を見て言った。

「あら、この髪、そんなに気になったの?」

 美姫は自慢のカーリーヘアーをさらりと手で触れて、

「これは天然。生まれた時から、くるっくるりん。髪の色はこれでも落ち着いてきたの。小さい頃はもっと明るかったわ。でも、あたしはこの髪、とっても気に入っているの。素敵でしょ?」

 と自慢気に言った。

「うん、とっても素敵だよ」

 明るく元気溌溂で、自信たっぷりな美姫は誰の目にも美しく、そして素敵に見えた。絢にも彼女はとても眩しく、雪兎が美姫を褒める言葉と、彼女へ向ける穏やかな眼差しに、心はちくりと痛みを感じた。

「ほら、次の質問。絢への質問は?」

 美姫は絢の今の気持ちを察することもなく、今の質問タイムを楽しんでいた。

「えっと。えっと……」

 雪兎は、何とか質問を考えて、

「そうだな? 絢ちゃんは、すごく綺麗でおしとやかで、とっても気になるんだけど、お付き合いしている人とか居たりするのかな?」

 と言ったあと、

「あっ、ごめんね。なんだか、いきなりすぎて、失礼な質問だったよね。やっぱり、この質問はやめるよ」

 と慌てて撤回した。

「あら、平気よ。あたしたちはみんな知っているわ。絢に彼氏がいるかどうかをね。さあ、絢、答えてあげなさいよ」

 美姫は悪戯っぽくウインクした。

「えっと、えっと……。あの~、お付き合いしている人はいないです」

 と絢は俯きながら、頬を赤らめで答えた。

「そうなんだ。それならよかった」

 雪兎がそう言うと、

「あら、雪兎君。絢にさっそくモーションかけるなんて、意外と積極的なのね?」

 と美姫が意味ありげに笑みを浮かべた。

「雪兎、絢の事が好きになったのか? こいつ、見た目がこうだからな、結構モテるぞ。そうだ、誰かに取られる前に、今、交際を申し込んでおけよ」

 義則が真剣な顔で言った。

「え? そんなのいきなりすぎて失礼だよ。絢ちゃんだって迷惑だよね?」

 雪兎が言うと、絢は俯いて、

「いえ、そんな……。迷惑じゃないです。その……。私、お付き合いとかしたことなくて……」

 と何ともいじらしい姿に、雪兎は思わず、

「それじゃ、絢ちゃんの初めてのお付き合いの相手として、僕を選んでもらえませんか?」

 と交際を申し込んだのだった。絢は顔を上げて雪兎を見た。彼の美しい瞳がまっすぐ自分を見つめている。

「はい。お願いします」

 絢が返事をすると、

「やったー! カップル成立!」

 美姫は大はしゃぎで、

「さて、お二人の交際開始を祝して、再び、カンパーイ!」

 義則の持っているグラスに、カチンと自分のグラスを当てた。


 交際を申し込めと言った義則も、この状況に少し驚いて呆気に取られていた。まさか、こうも簡単に二人が恋人同士になるとは思ってもみなかった。

「お、おう。おめでとう」

 少し気後れした感じで、義則は二人を祝福した。

「さて、それじゃ、あたしたちはボードゲームを選んでくるわね」

 美姫はそう言って、絢と二人で部屋を出た。

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