第4話

「いえーい! 一万円ゲットだぜ!」

 そう言って、義則よしのりは待っていた友人たちに一万円札をヒラヒラと見せた。

「まったく、調子いいんだから。無駄遣いしちゃだめだからね」

 あやが言うと、

「母さんみたいなことを言うなよ」

 と義則が笑った。

「みんな思うわよ。入学式の前日にゲーセンでお金を全部使っちゃうなんて、ほんと、信じられない」

 絢は呆れ顔で言った。

「僕、ちょっと親に電話するよ」

 雪兎ゆきとはそう言って、スマホで電話をかけた。

「もしもし……。はい。終わりました……。はい……。いえ。今、カラオケに行こうと誘われたので、行って来ていいですか? はい……。分かりました」

 そう言って、雪兎は通話を終えた。

「お前、誰に電話したの?」

 義則が聞くと、

「母だよ」

 と答えた。

「え? すんげー敬語じゃん」

「普通だよ」

 こうして、友人と話すときはくだけた言葉なのに、母と話すときは敬語を使うとは。きっと両親は躾に厳しいのだろうと考えて、入学式の時に見かけた夫婦を思い出した。

「ふ~ん。お前、今日、両親来ていただろう? 怖そうな顔と父親と、色白美人な母親を見たぞ」

 義則が言うと、雪兎が笑って答えた。

「きっと、それ、僕の両親だね。やっぱり目立ってた?」

「そうでもないけど、お前の母さん、すんげー美人だな。お前、母さん似だろう」

「うん。よく言われるよ」

 母親似の色白な雪兎はそう言って、屈託なく笑った。


「そろそろ行くよ。カラオケ、混むかもしれないから急ごうよ」

 美姫は義則の腕を取り、

「ほら、絢は雪兎君と」

 と言って、歩き出した。

「おい、おい、美姫。お前、強引だな」

 義則は笑いながら、美姫に腕を取られたまま一緒に歩いた。絢は美姫に言われて、少し照れながら、

「雪兎君、行きましょう」

 と声をかけたが、美姫のように、強引に腕を取ることはしなかった。

「うん、行こう」

 美しい笑顔を向けられた絢は、ますます頬が赤らみ、俯いてしまった。

「ほら、置いて行かれちゃうよ」

 雪兎はそう言って、絢の手をそっと握ると、

「行こう」

 と微笑みかけて、先を行く義則たちを追いかけた。絢は恥ずかしいのと嬉しいので、胸が高鳴った。


「待って、置いて行かないでよ」

 雪兎が義則たちに声をかけると、

「なんだ、お前ら、仲良しじゃん」

 と義則が嬉しそうに振り返った。隣を歩く美姫は、後ろから追いついて来た二人を、満足げな顔でちらりと見た。


 四人がカラオケ店に着くと、義則は慣れた感じで店に入り、受付の男性に、

「よっ!」

 と声をかけた。

「いらっしゃい。あれ? 新顔がいるね?」

 男性が言うと、

「こいつ、今日友達になったんだ。雪兎っていうんだ。よろしくな」

 と義則は男性に答えてから、

「雪兎、この人、俺たちの先輩。三コ上で大学生だ。近所の兄ちゃんの辰弥たつやさん。辰兄たつにいって呼んでる。お前も辰兄って呼んでいいぞ」

 と雪兎に辰弥を紹介した。

「はじめまして。瀧川雪兎です。よろしくお願いします」

 と頭を下げる雪兎に、

「いや、いや。そんなに畏まらないでよ。よろしく、雪兎君」

 と辰弥は言って、

「四人でのご利用でよろしいでしょうか?」

 と業務用の笑顔を向けた。

「おう。ボドゲ三時間で」

 義則が言うと、

「畏まりました。お部屋の番号は……」

 辰弥は部屋の番号と、パックの内容、フリードリンクの説明をして、

「では、お部屋へどうぞ」

 と最後に一言添えて、業務を全うした。

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