第3話

「みんな席に着いて、ホームルームを始めるぞ」

 担任教師が言うと、生徒はそれぞれの席に着き、前を向いて次の指示を待っていたが、義則よしのりはまだ後ろを向いて、雪兎ゆきとに話しかけていた。

「おい、誰だ? まだ後ろを向いているのは? そこの席は……。高木義則だな」

 義則は自分の名前を呼ばれて、

「はい! 何すか? 俺呼ばれた?」

 と前を向いた。

「名前、覚えたぞ」

 担任教師が言うと、

「あざーす!」

 義則は立ち上がって一礼した。

「褒めてないぞ」

 担任教師の言葉と、義則の態度が面白かったのだろう。クラス中から笑いが起こった。それにつられて、義則も笑った。


 それから、恒例の自己紹介が始まり、ある者は元気いっぱいに、自己アピールしたり、ある者は、嫌々、立ち上がり、呟くように名前を言った。

「俺、高木義則っす」

 周りを一巡して、

「まあ、半分の奴は知っているか。これといって、趣味はないけど、楽しいことなら何でも好きっす。仲よくしてやってください」

 と言って、自己紹介を終わった。雪兎は名前を言って、よろしくお願いしますと挨拶して終わった。


 自己紹介が終わると、明日の日程、持ち物などの連絡事項を告げて、

「では、これで終わります。明日、元気に登校するのを待っています」

 と締めくくり、ホームルームは終わった。

「ねえ、よっしー。このあとカラオケ行かない? いつもの所。お昼ご飯も兼ねてさ」

 美姫みきがそう言って話しかけてきた。

「おう、いいね。雪兎も行くよな?」

 義則が言うと、

「え? いいの?」

 と雪兎は驚いて顔を上げた。

「いいに決まってるだろう。俺たち友達じゃん」

 そう言って、義則は美姫とあやを振り返って、

「そうだ、雪兎の歓迎会をしようぜ」

 と提案した。

「いいねえ。そうしよう。それじゃ、行きましょう」

 美姫は絢の腕に自分の腕を絡ませて、嬉しそうに言った。

「う、うん。そうね」

 絢は頬を赤らめ、俯きがちに返事をした。

「あっ、そういえば、金、あったかな?」

 義則は自分の財布を広げて確認した。

「うわっ、やべえ。小銭しか入ってねえじゃん。昨日、ゲーセンで使っちまったんだ。ちょっと待ってて」

 義則はそう言って、窓に駆け寄り外を見ると、保護者達も説明会が終わったらしく、帰途につくところだった。

「おーい、母さん! ちょっと待って!」

 両親を見つけると、義則は大きな声で呼び止めた。

「ちょっと金、貰って来る」

 そう言って義則は駆けだして教室を出た。


「母さん! ごめん、ちょっとお願いがあるんだ。これからみんなでカラオケ行こうって話になってさ。絢と美姫、それと、今日友達になった雪兎を誘ってさ、歓迎会をするんだ。それで、お願いなんだけど、俺、金がなくてさ。俺だけ行けないなんて可哀想だろう? だからさ、お金を下さい。お願いします!」

 と両手を脇に揃えて、しっかりと頭を下げた。

「分かりました。特別ですよ。楽しんでいらっしゃい」

 母はそう言うと、財布から一枚取り出し、義則に渡して、

「無駄遣いするんじゃありませんよ」

 と最後に釘を刺した。

「はい! ありがとう、母さん! ほんと、サンキューな!」

 お金を受け取った義則は、飛び切りの笑顔で礼を言って、教室へ戻って行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る