第45話

 人型の炎は意思を持っているかのように、一度大きく燃え上がると、その手を伸ばし、隼人はやとの父に触れようとしたが、彼は大幣おおぬさを振ってその手を払った。そして、更に言葉を唱えると、銅鏡に相手の姿がはっきりと映し出された。それは義則よしのりの知らない男だった。

「あれは、魔獣操士なのか?」

 義則が聞くと、

「それは分からないが、おそらく魔獣は従えていないのだろう。あいつは呪術師だ。この一連の悪事の首謀者か、昨日、捕まえた呪術師のように、金で雇われたのかは本人に聞かなけりゃ分からない。いずれにしても、今は、あいつが瀧川夫妻にかけた呪術を解かなくちゃならない」

 と隼人は答えた。

「もちろん、そうだな」

 義則はそう言って、隼人の父を見つめた。雪兎ゆきとも黙って彼らの動向を見つめていた。勝負の如何いかんによって、雪兎の両親の生死が決まるのだから心中穏やかではない。


 隼人の父の声が大きくなり、炎は更に燃え上がり、彼らの戦いは過激さを増してきたようだ。隼人の父はまだ足の怪我は治っておらず、椅子に腰を掛けていたが、大きく燃え上がる炎に襲われ、椅子ごと倒れかけたところを白猫が支えて元に戻した。その白猫は彼の従える魔獣だ。この戦いが始まってから、初めて姿を現したが、常に白猫はあるじに寄り添い支えていた。魔獣操士と契約魔獣は服従の契約で結ばれてはいるが、お互いに認め合い、信頼し合い、支え合っているのだ。


「お前のお父さん、大丈夫なのか?」

 義則が聞くと、

「今のところは問題ない。親父は相手の力量を測っている。それと同時に、相手に霊力を使わせて、消耗させているんだ。頃合いを見て、相手を呪縛する。だが、相手の力が強ければ簡単にはいかない。というか、逆に親父が呪縛されるだろう」

 と隼人が淡々という。

「え? それは困るだろう? なんで今、加勢しないんだ?」

 義則が心配して言うと、

「俺の出番が来るのは、親父が倒されてからだ。銅鏡を使った戦いは一対一でなければならない。だから、戦いが始まったら、どちらかが倒れるまで加勢は出来ない。これは相手も同じ条件だ」

 と隼人が答えた。

「それじゃあ、お前のお父さんがやられるのを見ているだけなのか?」

「親父がやられると決まっていないだろう? ああ見えても、親父の能力は高い。簡単に負けたりはしない」

 隼人はそう言ったが、相手の能力も高い事は認めていた。相手が並の術者ならば、もう既に呪縛されていただろう。

「仕方ない。お前の犬を貸してくれ」

 隼人はそう言ってから、呪符を一枚だして、

「これは叔父が書いたものだ。匂いを辿って、叔父に会って連れて来て欲しい」

 と呪符を義則に渡した。

「おう。分かった」

 と義則は言ってから、銀色の犬を出して、命令を下した。

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