第44話

 翌日、雪兎ゆきと義則よしのりは家庭の事情により学校を休んだ。もちろん、義則は家族に事情を説明済みだ。

 義則と隼人はやと、隼人の父は、雪兎の屋敷へ来ていた。そして、早速、準備を始めた。隼人の式神しきがみが雪兎の両親を運んできて、庭に畳を二枚敷いてその上に寝かせた。二人とも蒼白な顔で、生きているようには見えない。心配そうに見つめる雪兎に、

「心配するな、まだ生きている」

 と隼人が言った。隼人の父は、四本の細い竹と縄で囲いを作り、木の台に銅鏡を立てて置いた。義則には何をしているのかよく分からないが、彼らの邪魔にならないように離れて見ていた。隼人の父は銅鏡の前に木を井桁に組み火をくべると、

「それでは始める」

 と言った。

「お前らは何があっても、あの囲いの中には入るなよ」

 隼人が言うと、

「これから何が始まるんだ?」

 と義則が聞く。

「今から瀧川夫妻の魂を封じた奴にここから攻撃する。奴がどこに居ようと、あの銅鏡が繋げる。こちら側から攻撃できるという事は、向こうからも攻撃できるという事だ。だから、あの囲いの中は危険なんだ。もし、相手が親父おやじより強ければ、俺も加勢する」

 隼人はそう言って、言葉を切り、

「俺たち二人が負けたら。叔父を頼ってくれ。姉にはそう伝えてあるから」

 と続けた。

「分かった。俺と雪兎には手伝えることはないんだよな?」

 義則が言うと、隼人は暫し考えて、

「そうだな。俺たちの霊力が消耗したら、霊力を分けてくれると助かる。敵も戦えば霊力を消耗する。どちらが先に力尽きるかで勝負が決まる」

 と答えた。

「そうか! それなら、あや美姫みきも呼ぼうぜ。なんなら、他の奴らにも声を掛けよう。みんなに霊力を分けてもらえれば、こっちが力尽きることはないぜ」

 義則はそう言って、銀色の犬たちを呼び、

「お前ら、俺の友達を連れて来い」

 と命令すると、犬たちは一声吠えて、駆けだして行った。

「よし、これで安心だな。ところで、お前のお父さんは勝てそうなのか?」

 義則がのん気に聞くと、

「さあな。それは俺にも分からない」

 と言って、父の方へと視線を向けた。隼人の父が唱えているのは古の言葉で、義則には何を言っているのか分からなかった。

「今親父は、術者を呼び出しているところだ」

 隼人の言葉に、雪兎と義則は、黙って隼人の父を見ると、彼の前で燃え上がる炎が人型に変化した。

「現れたな」

 隼人がぽつりと言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る