第43話

「ところで、一体何が起こっているんだ? 白龍使いは何に呪われたんだ?」

 隼人はやとが聞く。

「呪われた? って何だ?」

 義則よしのりが聞くと、

「あれは悪霊だ。呪いに使ったんだろう。一体誰に呪われたんだ? こんなことできる奴は限られる。呪いの術を使える者だ」

 隼人がそう言った時、火の鳥が男を咥えて戻ってきた。

「助けてくれ~! 殺される~」

 情けない声を出しているが、火の鳥が連れて来たのだから、この呪いをかけた張本人に違いない。火の鳥は男を地面に落とした。

「痛い! 何をするんだ!」

 男が叫ぶと、

「それはこっちのセリフだ。何してくれてんだ? 俺の友達に。俺は優しいが、怒ると怖いぜ」

 と義則は男に凄んだ。

「うっ、魔獣操士」

「観念しろよ。雪兎ゆきとの服従の契約は上書きしたし、闇の者たちは浄化した。俺の友達は強者ぞろいだ。お前はもう負けている」

 義則が言うと、男は恐怖で震えた。

「待て、待て。これは仕事なんだ。俺たち呪術師は金を貰って雇われているんだ。ほら、こうやって依頼を受けている」

 そう言って、男はスマホの画面を見せた。

「だからなんだ? 金の為なら悪い事をしてもいいなんてわけはないだろう?」

 義則が言うと、

「俺にだって家族がいるんだ、生活するには金が要る。仕事をしなくちゃならないんだ」

 と言い訳を並べる男にうんざりした隼人はやとが、

「黙れ、聞かれた事にだけ答えろ」

 と言って、印を結んだ。すると、おしゃべりだった男は口をつぐんだ。

「お前、何をしたんだ?」

 義則が聞くと、

「こいつの口を封じた。うるさいんだよ、まったく」

 と隼人が答えた。

「俺がさっき浄化した悪霊は、別の奴が操っていた。こいつじゃない。だが、今は呪い返しで倒れているだろう。それで、お前は白龍使いに何をしたんだ? 答えろ」

 隼人が聞くと、

「俺は服従の契約を課した」

 と男が答えた。

「そうか。白龍の力を封印したのは誰だ?」

「知らない」

「瀧川夫妻の魂を封じたのは誰だ?」

「知らない」

「お前の依頼者は誰だ?」

「知らない」

「ふんっ、まったく使えない奴だな」

 男は隼人の質問に素直に答えて、余計なことは一切言わなかった。

「お前、その術、友達には使うなよ」

 義則が言うと、

「お前は、俺を何だと思ってんだよ」

 隼人が苦笑いして言う。それから、

「ここは空気が澱んでいる。呪術師が邪悪なものを呼び寄せたせいだな。浄化しておく。それと、結界を張っておこう。黒猫」

 隼人は黒猫を出して、指示を与えると、それに従い闇に消えていった。暫くすると辺りの空気が変わり、木々の葉は月明かりを照り返し、サラサラと揺れた。淀んだ空気が消え去り、爽やかな風が吹いてきたのだ。そして、準備が出来たとばかり、隼人が印を結び唱えると、敷地全体に結界が張られた。

「外壁に貼った護符によって結界を張っている。効力には限界があるが、結界が解かれれば俺に知らせが届く」

 隼人はそう言ってから、

「お前の白龍、出してみろ」

 と雪兎に言った。雪兎がペンダントから白龍を出すと、何枚もの呪符がその身体に貼られていた。

「まったく、霊獣にこんなことをして、罰当たりな奴め」

 隼人はそう言って、その呪符を手で剥ぎ取っていった。

「え? 君、大丈夫なの?」

 雪兎が心配して言うと、

「俺を誰だと思っている? 呪術師の呪符なんて、俺にとってはただの紙屑だ」

 隼人が言う通り、剥ぎ取った呪符は効力を失い、本当にただの紙屑となった。そして、白龍は封印術から解放されたのだった。


「まだ、心配な事は多いが、お前は一人じゃない」

 隼人が雪兎にそう言ってから、

「それと、お前の両親に会わせてくれ。魂の封印など、言語道断」

 と怒りを露わにして言う。

「うん」

 雪兎が隼人を両親に会わせると、

「これは……」

 言葉に詰まり、

「今日は済まないが、一度帰って、明日、親父と一緒に来る」

 と言った。相当、厄介な術なのだろう。

「え? お前のお父さん、もう大丈夫なのか?」

 義則が聞くと、

「ああ、今は家でリハビリ中だ。というか、怠惰な日々を送っている」

 と隼人は嘆くように言った。

「そうか、それは良かったな。ってなんだ?」

 義則のその質問には誰も答えなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る