第42話

『来るぞ』

 くろがそう言って、敵が来る方向へ向いた。

「おう!」

 隣では、あおも敵の方向へ身体を向けて、

あるじ、指示を』

 と美姫みきに指示を仰いだ。

「敵が来たら、私を守って戦って!」

 美姫が言うと、

『了解した』

 と答えて、ワオーンと一声吠えた。黒も続いて吠えて、まだ見えぬ敵を闇の中に見つけて駆けだして行った。義則よしのりは指笛を吹き、銀色の犬たちを呼び出した。闇から次から次へと現れた犬たちは、闇の中でその銀色の毛を輝かせて、敵へ向かって駆けていく。


 見えぬ闇の中で、確かに犬たちは何かと戦っているが、相手の姿は見えず、声も聞こえてこない。一体彼らは何と戦っているのだろうと、義則が考えていると、雪兎ゆきとあやが来て、

「契約の上書きは成功したよ。まさか、絢ちゃんにこんな強い力があったなんて知らなかった」

 と晴れ晴れとした顔で雪兎が言った。

「俺は知っていたぜ。ただ、絢は霊力を抑えることも出来るから、気付かれないだけだ。火の鳥が絢に服従しているんだぜ? 絢の優しさだけじゃない。霊力の強さを認めたからだ。話しは変わるが、俺の犬たちは何と戦っているんだ?」

 義則が聞くと、

「あれは闇の者。僕にはそれしか分からない。あれを闇から呼び出して操っている人間がいるんだ。いつも姿は見せない。僕の白龍も特殊な封印術で霊力を封じられた。だから、今の白龍は本来の力は出せないんだ。悔しいけど、正体の分からない敵を、僕は倒せなかった。それで、服従の契約と、両親の魂を囚われた。僕が不甲斐ないばっかりに」

 雪兎が悔し気に言うと、

「許せないわ」

 絢がいつになく感情を露わにした。すると、それに呼応するように、火の鳥が大きく姿を変え、一声鳴いて羽搏はばたいた。

「ピーちゃん。悪い奴を掴まえて!」

 絢が言うと、火の鳥は空へ舞い、その目的を果たすため飛んでいった。

「え? ピーちゃん? っていうか、あいつ、敵がどこにいるのか分かるのか?」

 義則が言うと、

「私はピーちゃんを信じているの。絶対に捕まえて来るわ」

 絢の火の鳥が行ってからも、まだ、犬たちは闇の中で戦い続けていた。暗くて何も見えないが、犬たちの唸る声や、吐く息が聞こえてくる。

あおちゃん、大丈夫かしら?」

 美姫が心配して言った。

「青はお前を守るために戦っているんだ。信じて待ってろ」

 と言いつつも、義則も心配していた。相手は魔獣ではない。何か嫌な邪気を感じた。そこで義則はある考えが浮かんだ。

「そうだ、隼人はやとを呼ぼう」

 隼人は神社の宮司で邪気を鎮める力を持っているのを思い出した。銀色の犬を向かわせて、その背に乗せてくるよう命じると、数分で隼人がやって来た。

「何て禍々しいんだ。お前ら何と戦っているんだ? あの気持ちの悪い邪悪なものは何だ?」

 来て早々、文句ばかり言ったが、

「お前らには、あの邪気は払えないだろうから、これは貸しだぞ!」

 隼人はそう言って、大幣おおぬさを振り、清めの言葉を唱えた。すると、邪悪な闇の者は苦しそうにうめき声を上げ始めた。効果はあったようだ。隼人は更に唱えて大幣を振ると、黒い者たちは煙となって消えていった。すべてが消えるまで隼人は唱え続けた。

「おおっ! さすがだな。神に仕える者は違うな!」

 義則が言うと、

「調子のいい奴だな」

 と隼人が笑った。

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