第46話

 暫くして、先にお使いを頼んでいた犬が、義則よしのりのもとへ帰ってきた。

「急に呼び出すとはな。何事だ?」

 そう言ったのは、黒熊使いの阿仁あに峰人みねひとだった。

「おう、みねちゃんが一番乗りだな!」

「なんだ? 一体何が起こっているんだ?」

 突然呼び出され、何が何だか分からないのも無理はない。義則の銀色の犬も事情の説明は出来なかったようだ。

雪兎ゆきとの両親の魂が封じられたんだ。それで、その術をかけた呪術師と戦っているところだ」

 と義則が説明して、隼人はやとの父を指差した。

「それで、呪術師はどこにいるんだ?」

 峰人みねひとが聞くと、

「離れたところにいるが、銅鏡で繋いで攻撃している」

 隼人が答えた。

「そうか。それで、俺に何をさせたいんだ? 言っておくが、呪術師の術に魔獣は勝てないぞ」

 と峰人が言うと、

「そうらしいな。白龍も霊力を封じられたからな。俺がお前を呼んだのは他の理由だ。銅鏡で戦うことが出来るのは一人だけなんだってさ。隼人のお父さんの霊力を消耗したら、俺たちの霊力を分けてやるんだ」

 と義則が答えた。

「お前、霊力を人に分けたことがあるのか? その方法を知っているのか? まあ、瀕死の奴の命を救う為なら、多少は我慢するべきだろうが」

 峰人は苦笑いしながら言う。

「どういう意味だ?」

 義則が間の抜けた顔をした。その時、

「親父!」

 隼人が父親へ駆け寄って、父の代わりに呪術師と対峙して、

「親父を頼む。霊力を消耗している。誰でもいいから、霊力を分けてやってくれ」

 と言った。

「おう! 任せろ!」

 義則は、やっと自分が役に立つとばかりに、元気よく引き受けた。

「それじゃあ、頼んだ」

 隼人は、そう言って、敵の呪術師に攻撃を始めた。

 義則と峰人は隼人の父を抱えて、どこへ寝かせようかと、周りを見ると、隼人の式神が畳を一枚運んできた。式神は言葉を発しないが、どうやら、ここへ寝かせろと言っているようだ。

「おっ、お前ら、気が利くじゃないか。ありがとう」

 義則は式神に礼を言って、隼人の父を寝かせて、

「隼人のお父さんに霊力を分けてやりたいんだが、方法が分からない」

 と峰人に言うと、

「一番簡単な方法は、口づけだ」

 と教えた。

「口づけ? え? ちゅーするって事かよ⁉」

 義則が驚いて言うと、

「お前がやるって言ったんだろう?」

 と峰人はにやりと笑う。

「俺を揶揄っているんじゃないだろうな?」

 義則が言うと、

「まあ、揶揄ったわけじゃないが、他にも方法はある。だが、それは難しい。口づけが簡単な方法と言ったのは、人は生きるために呼吸をする。だから、霊力を損ない、それを必要として、無意識に口から取り入れようとする。だから、口から霊力を送りやすいんだ。意識のない者にも有効な手段なんだ。だが、それが嫌なら、接触で霊力を送る。手を身体の中心に当てて、自分の霊力を送る。だが、相手がそれを受け取ってくれるかが重要なんだ。接触法が駄目だった場合は、やはり、口づけ法になる」

 と峰人が説明した。

「なんだか、めんどくせーなあ。まずは、俺がやる。それで足りなきゃ、お前だからな」

 義則が覚悟を決めて、隼人の父親へ霊力を送った。もちろん口づけだ。

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