第47話

 意を決して、霊力を分けた義則よしのりだったが、隼人はやとの父はすぐには目を覚まさなかった。

「おい、大丈夫なのか? 俺の霊力が足りなかったのか?」

 義則が聞くと、

「いや、十分に足りている。暫くしたら目を覚ますだろう」

 と峰人みねひとが言ったその時、賑やかに美姫みきたちがやって来た。

「よっしーー! 来たよ!」

 ニコニコしながら銀色の犬の背から降りた美姫が言った。

ぎんちゃん(銀色の犬)から、聞いたよお。あたしたちの霊力を分けてあげればいいんだよね?」

 美姫が言うと、

「あっ、そ、それは、もう、大丈夫だ」

 と歯切れの悪い返事をする義則。

「え~? なにそれ~? なんかよっしー、おかしいよお?」

 美姫がにやりとして言う。その隣では気が気じゃないというふうに、あや雪兎ゆきとの方へチラチラと視線を向けていた。

「絢、雪兎の傍に居てやってくれ」

 義則が言うと、

「うん」

 と返事をして、絢は雪兎とその両親の傍へ行った。

「美姫、霊力ならもう俺が分けたから大丈夫だ」

 義則がそう言った時、また、誰かやって来た。

「義則君、来たよ」

 そう言ったのは、蜥蜴とかげ使いの田中たなか朔太郎さくたろう。そして、その隣には、白蛇しろへび使いの加藤かとうしずくがいた。

「おっ、来てくれたか。っていうか、お前ら、仲良しなのか? 一緒に来るなんて」

 義則が聞くと、

「違うわよ!」

 としずくが否定した。

「俺たちは、今日が初対面だ。義則くんの犬が迎えに来た時、ちょうど、白蛇使いにも犬が来ていてさ。俺たちが同じ大学に通っている事を知ったんだ」

 と朔太郎が答えた。

「そうか! それは良かったな」

 義則たちが、そうして、他愛のないおしゃべりをしている間も、隼人は一人で戦っていた。そして、相手からの大きな攻撃を受けて、派手に炎が燃え上がり、隼人の身体は吹き飛ばされ、結界を張った囲いも壊れた。義則はすかさず、隼人の身体を受け止め、くろが義則を身体で受け止めた。

「隼人がやられた!」

 もうこれまでかと思った時、

「ごめんね~っ! 遅くなったよ!」

 と銀色の犬の背に乗って、誰かやって来た。みんながその人物を確認しようと視線を向けたが、誰もその人を知らなかった。

「ちょっと、立て込んでいて、遅くなったけど、間に合ったかな?」

 と言ったあと、畳に寝かされた隼人の父、義則に抱きかかえられた隼人を見て、

「あっ、これは、まずいね」

 そう言って、すぐに式神を使って竹の囲いを直し、結界を張り直してその中へ入っていった。

「誰?」

 美姫が聞くと、

「隼人の叔父さんだと思う」

 と義則は曖昧に答えた。男は青猫を従えて祭壇の前に座り、手印を結び、何やら唱え始めた。それも、いにしえの言葉で、義則には何を言っているのか分からない。それでも、これから何が起こるかその目で確かめるため、彼を見つめていた。暫くすると、激しく燃え上がっていた炎が小さくなり、そのままシュルシュルと小さな音を立て消えた。男は立ち上がり、銅鏡に布を被せて戻ってきた。

「終わったよ。呪縛は出来なかったけど、呪いを返した。相手はだいぶ強かったようだね。怪我をしていなければ、兄さんに倒せない相手ではなかっただろうけど」

 とそこで言葉を切って、

「あっ、自己紹介がまだだったね。僕は池谷いけたに正人まさと。正しい人と書くよ。そこで寝ているのが、僕の兄で、池谷いけたに義人よしと。よしという字は、正義の義。これも正しいという意味だ」

 と言った。

「おっ、義人の義が俺とおんなじだ。俺は高木義則。隼人の友達っす。よろしくっす」

 と義則は嬉しそうに言った。

「そうか、それは奇遇だな。その義則君が、僕の兄に霊力を分けてくれたんだな? ありがとう」

 と正人は礼を言った。それから、

「白龍使いのご両親の魂の封印は解かれたよ。相手の呪術師も、今は霊力を消耗していて、呪いも返されたから、暫くは動けなだろう」

 そう言って、雪兎の両親の傍まで行き、

「僕の霊力を注ぐよ」

 正人は雪兎の両親の間に座ると、両手で彼らの腹部に触れて目を瞑った。そして何やら口の中で唱える。義則はこれが、峰人の言う接触法による、霊力を注ぐ方法なのだと知る。

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