第48話

 隼人はやとの式神が畳を運んできて、隼人をここへ寝かせるようにと言っている。

「おう、ありがとう」

 義則よしのりは笑顔で式神に礼を言った。それから、峰人みねひとに向けてこう言った。

「今度はみねちゃんの番だぞ。隼人に霊力を分けてやってくれよ」

 峰人は、

「分かった」

 と返事をして、隼人の傍に座ったのを見て、

「ちゅーするのか?」

 と嬉しそうに義則が言う。

「しねえよ!」

 と峰人は答えて、隼人の腹部に手を当てて、

「しっかり受け取れよ」

 と言って、霊力を注いだ。どうやら、隼人には意識があるようで、峰人の霊力をしっかりと受け取った。

「なんだ、つまんねーなあ」

 義則は峰人を揶揄うつもりでいたが、結局、男と口づけしたのは義則だけだった。


 雪兎ゆきとの両親は霊力が満たされると、その顔に色が戻ってきた。

「お父さん、お母さん」

 雪兎が両親に声をかけたが、反応は無かった。

「今はまだ意識はない。けれど、もう大丈夫だよ。霊力は十分満たしたからね」

 正人まさとが言うと、

「ありがとうございました。でも、二人に霊力を分けて、あなたは大丈夫なんですか?」

 と雪兎が聞く。

「うん。僕の霊力には秘密があってね。人に分け与えても尽きることはない。秘密は教えてあげられないけどね」

 と謎めいたことを言ったあと、

「義則君にお礼を言わないとね。僕の兄に口づけをありがとう」

 と口角を上げて言った。

「うわあっ、それっ、言わないでくれよ!」

 義則が大慌てで言うと、

「なんだ、お前、ファーストキスだったのか?」

 と峰人が揶揄う。

「違うってば!」

 義則が否定すると、

「よっしーのファーストキスはあたしだもんね」

 と美姫みきがにやりと笑みを浮かべて言った。

「おう、そうだ。俺が美姫意外にちゅーしたのはこれが初めてだぞ。もう二度とやらないけどな!」

 そんなやり取りを見て、

「何の話だ? 義則君が黒猫使いの親父とキスをしたって? どんな冗談なんだ?」

 訳が分からない朔太郎は首をかしげて言った。

「とんだ茶番に付き合わされたわ。一限目の講義を諦めて来た意味がないわね」

 雫が腕を前に組んでつんと上向きで言った。

「突然、呼び出して悪かったよ。でも、来てくれてありがとう。俺との友情を優先してくれて嬉しかったぜ」

 と義則が言うと、雫と朔太郎は嬉しそうに笑みを浮かべ、

「ほんと、調子のいい奴だな」

 と朔太郎が、

「まったく、お騒がせな人ね」

 と雫が言う。


 無駄に呼ばれた二人だったが、義則の一言で、気をよくして帰って行った。

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