第8話

 次の日、

義則よしのり、起きなさい」

 母に起こされ、いつものように朝食を済ませて身支度をした。ネクタイは緩めに結び、シャツは二番目のボタンまで外し、ブレザーのボタンはせず、シャツの裾は出したままという着崩しだ。

「義則、服はきちんと着なさい」

 出かけようとする義則に母が言ったが、

「もう時間ないから。行ってきまーす」

 とそのまま出かけた。家の門を出ると、ちょうど、美姫みきあやが通りかかった。

「よっしー! おはよう」

 絢が元気よく言うと、

「おう、おはよー。一緒に行こうぜ」

 義則も挨拶を返した。

「よっしーその恰好、おばさんに叱られなかったの?」

 美姫が言うと、

「あ~、言われたけど、そのまま出てきた。ほら、きちんとボタン閉めるとさ、動きづらいし、首元が苦しいじゃん。っていうか、お前も着崩してるじゃん」

 義則が言う通り、美姫のシャツのボタンは上から二つまで外して、スクールリボンも緩く締めていた。シャツの丈は短く、腕を上げればへそが見えそうで、スカートの丈は尻が見えそうなほど短い。

「ボタンはもう一つ閉めとけよ」

 義則はそう言って、美姫のシャツのボタンを一つ閉めて、緩いリボンも直そうとしたが、

「どうなってんだ? これ? 絢、直してやってくれよ」

 お手上げ状態で絢に頼むと、

「後ろで調節できるよ」

 と言って、すぐに直した。

「え~、苦しいよ~」

「苦しかったら、もっと大きめのシャツにしろよ」

「え~、大きめのシャツなんて可愛くないよ」

 美姫は文句を言いながらも、義則がシャツのボタンを閉めるのを拒否しなかった。けれど、美姫の大きな胸は、シャツの伸びない生地で窮屈そうだ。

「そのスカート短過ぎだぞ。パンツ見えるだろう、それ」

「あら、いいのよ。見えても」

 と平気な顔で言う美姫に、

「いや、駄目だろう。俺はいいけど、他の男子が見たらヤバいって」

 義則が言うと、

「あら、なんでヤバいのよ? どうして、義則はいいのよ?」

 とにやりと笑って美姫が問い詰めた。

「あのな~。俺たちお年頃の男子には、女の子のパンツは刺激が強いんだよ。パンツを見て、あれこれ想像を膨らませてだな~って、俺に何言わせようとしてんだよ。とにかく、短すぎるから着替えて来いよ」

「嫌よ。遅刻しちゃうじゃない」

「じゃあ、今日はパンツ見えないように気を付けろよ」

「よっしーったら、そんなに心配なら、ずっとあたしの傍に居ないとね」

「ああ、そうするよ」

 そんな二人を見て、絢は微笑んだ。


 学校に着くと、義則は周りへ警戒の視線を向けて、美姫の隣を歩く。

「絢ちゃん、おはよう。美姫ちゃん、おはよう」

 澄んだ声が二人に挨拶をした。その声の方へ義則が振り向いて眼光を光らせる。

「んあ~! 誰だ?」

 そこにいたのが雪兎ゆきとだと分かると、

「ああ、お前か、雪兎。おはよう」

 とぞんざいな挨拶をして、また、周りを睨むように牽制した。これでは、誰も彼らへ目を向けられない。ましてや挨拶もできないだろう。

「彼、どうしたの?」

 そんな義則の行動に疑問を抱いたのだろう。雪兎は小首をかしげて絢に尋ねた。

「美姫のスカートが短くて、パンツが見えそうだから、他の男子に見られないように見張っているの。雪兎君も見ないように気を付けてね」

 絢が言うと、

「うん。大丈夫だよ。僕は絢ちゃんしか見ないから」

 と雪兎は絢へ笑顔を向けた。

「え?」

 絢は頬を赤らめて、それを雪兎に見られないように両手で頬を隠し、後ろを向いて、

「さあ、教室へ入りましょう」

 と言って、ごまかした。

「うん」

 雪兎はそう返事をして、絢の肩に手を添えて、二人で教室に入った。

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