第58話

 義則よしのりは家に帰ると、早速、京極きょうごく家のことを聞いてみた。

「う~む。京極家は聞いたことがないな。佐々木家の分流で、魔獣操士ではないんだろう?」

 祖父にも分からないようだ。

「じいちゃんにも分からない事ってあるんだな?」

 義則は、祖父は何でも知っていると思っていた。

「佐々木家の分流についてなら、間宮か佐々木に聞くのがいいだろう」

 と祖父が言い、

「おう、そうだな。明日、間宮んちに行ってくるぜ」

 義則は嬉しそうに言った。


 翌日の放課後、義則は間宮の屋敷へ行った。そして、何の迷いもなくインターホンを押すと、応答があり、

「高木義則っす、間宮さんに会いに来ました」

 と言うと、

『ただいま確認いたしますのでお待ちください』

 と警備員が言って、少し待つと、

『高木様、どうぞお入りください』

 と、今回は難なく中へ入ることが出来た。

「どうぞ、お乗りください」

 目の前には黒い車があり、黒服が乗るように言った。

「おう、ありがとう」

 間宮家の敷地は広すぎるため、移動には車が必要だった。一分ほどで車は止まり、

「高木様、着きましたのでお降りください」

 義則が降りると、屋敷の前で別の黒服が待っていて、

「どうぞ、あるじがお待ちです」

 と言って、義則を部屋まで案内した。

「ありがとう」

 黒服に礼を言うと、深くお辞儀をして、

「失礼致します」

 と言って下がっていった。

「犬使い、今日は何の用だ?」

 客間で一番大きくて立派な椅子にどっかりと腰を下ろして座る間宮が言った。

「お前に聞きたい事があって来たんだ。座っていいか?」

 義則が聞くと、

「ああ、遠慮せずに座れ」

 とことほか、機嫌が良さそうだった。

「お前、佐々木家の分流の京極家を知っているか?」

 と義則が本題に入ると、

「知らんな。そいつがどうした?」

 と間宮が問い返す。

あおいが言うには、京極家も呪術を使うらしい。この間、佐々木を捕まえただろう? 雪兎ゆきとはこれで終わりじゃないって言うから、他にも怪しい奴がいないか調べてみたら、京極家が浮上してきたってわけだ。そこで、お前が知っているかもしれないと思って聞いたんだが、知らないのなら仕方ないな」

 義則がそう言うと、

「佐々木なら知っているかもしれない」

 間宮はそう言ってから、執事を呼んで、佐々木を呼ぶように言った。

「暫く待てば、佐々木が来る。それまでは、茶でも飲んで待っていろ」

 間宮が言うと、給仕の者がお茶の支度をして入ってきた。

「ありがとう」

 義則が礼を言うと、給仕の女性が、目を伏せたまま会釈して戻って行った。

「犬使い、誰彼構わず声をかけるな。彼らはあれが仕事だ。礼など不要だ」

 と間宮が言うと、

「それは違うぜ。お礼を言うのは感謝の気持ちなんだ。仕事だからとか関係ねえよ。俺がありがとうって言いたいんだ」

 と義則が言う。

「勝手にしろ」

 と間宮は言ったが、口元には笑みが見える。

「なあ、今日、世玲奈せれなは来ていないのか?」

 義則が聞くと、

「お前に教える義理はない」

 と間宮が答え、

「隠さなくたっていいだろう? 来ているのは知っていた。白狐の気配がうっすら残っている。ここにいたんだろう?」

 義則が言うと、

「だから何だ?」

 と間宮が問う。

「俺が来たからって、部屋から出る必要はないぜ。呼び戻せばいいだろう。のけ者なんて、可哀想だろう?」

 義則の言葉に、間宮は深くため息をついて、

「世玲奈、戻って来い」

 と言った。すると、暫くしてから、部屋の戸がノックされた。

「失礼します」

 と世玲奈が言うと、

「入れ」

 と間宮が言って、世玲奈が部屋に入ってきた。この一連の流れに、ふと疑問がわいた。

「世玲奈、お前、間宮の声が聞こえたのか?」

 間宮は大きな声で呼んだわけではない。世玲奈がどこにいて、どうやって間宮の声を聞いたのだろうか。

「何処に居ようと、どれだけ離れていようと、世玲奈には、私の声が届くのだ」

 と間宮が答えた。

「世玲奈、お前も座りなさい」

 間宮に言われ、世玲奈は下座に座ろうとすると、

「お前はこちらへ座れ」

 間宮は自分が座る大きな椅子に座るように言った。

「はい」

 世玲奈は間宮の言葉に従い、彼の隣へ腰を下ろした。大きな椅子は二人が並んで座ってもまだ余裕があった。義則は、二人が仲良く一つの椅子に座るのを見て嬉しく思って、

「お前ら、仲良しじゃん」

 つい、言葉が口をついて出た。

「黙れ」

 間宮は怒ったわけではないようで、静かにそう言った。その時、部屋の戸がノックされて、

「佐々木様がお見えです」

 と執事が言った。

「中へ入れ」

 間宮が言うと、佐々木ささき信輝のぶてるが部屋へ入ってきた。

「失礼します」

 と言う佐々木に、

「座れ」

 と間宮が一言言った。佐々木は、当然のように下座に座った。

「お前を呼び出したのは、聞きたい事があってな。犬使いが京極家について知りたいという。お前は何か知っているのか?」

 と間宮は早速問い質した。

「はい。京極家は我が佐々木家の分流です。何をお聞きになりたいのでしょうか?」

 佐々木が聞くと、

「京極家も呪術を使うと聞いた。私への反逆を考えているのか?」

 と間宮は逆に問う。

「私は京極家と交流はありません。しかし、呪術を使えば痕跡が残る。何か企んでいるのなら、調べれば分かります」

 と佐々木が答えた。

「そうか、それなら、お前に託そう。呪術の痕跡を探せ」

 間宮が言うと、

「御意」

 と一言返した。

「犬使い、これで良いか?」

 と間宮は義則に聞いた。

「そうだな。俺たちが下手に動くより、呪術に長けた佐々木が探る方がいいだろう」

 と答えると、

「では、これで用事は済んだか?」

 と間宮が問う。

「ああ、用は済んだ。俺は帰る。じゃましたな」

 そう言って、義則は間宮の屋敷をあとにした。

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