第24話

「一人じゃなかったのは賢明だな。それで、一応聞くが、俺たちに何の用だ?」

 義則よしのりが聞くと、

「用件は言わなくても分かっているだろう? お前たちの魔獣を頂きに来たんだ。大人しく置いて行けば、命は取らない」

 魔獣操士は五人いて、その内の一人が言った。

「へえ~、優しいことを言うじゃないか。それじゃあ、俺にも言わせてくれよ。魔獣狩りを止めて帰ってくれたら、お前たちを傷つけたりはしない。どうだ? 俺も優しいだろう?」

 義則が言うと、

「馬鹿なことを。どちらが優勢かも分からないのか? そっちは白龍はくりゅうを連れているが、こっちは数で勝っている。だが、まあいい。大人しく魔獣を渡す気はないという事だろう? こうして、戦いの場に俺たちをおびき出したのだからな」

 男がそう言って、他の男たちに目配せした。すると、彼らは自分の魔獣をそれぞれ出した。黒熊、黒牛、黒豹、黒鹿、黒狐。彼らの主格の男は黒熊使い。大型の黒い魔獣を従えた者たちが揃うと、かなり強敵に見えた。そして、彼らの魔獣から放たれる霊気も強い。見掛け倒しでもないというのは、義則たちにも分かった。

「なるほどな。自信たっぷりなのは張ったりじゃないって事か」

 義則が言うと、黒熊使いが、

「そうだな。俺たちは強い。お前たちを無傷で返してやれる自信はないが、お互いこのままでは終われないだろう?」

 と言った。

「ところで聞くが、お前たちは黒猫使いに服従の契約をさせられたわけじゃないのか?」

「はっ! 黒猫なんて雑魚になんで俺たちが」

「じゃあ、魔獣狩りは命令じゃなくて、お前たちの意思なのか?」

「何が聞きたい?」

「魔獣狩りをする理由が知りたい」

「答えるわけがないだろう? お前は馬鹿なのか?」

「俺は馬鹿じゃないが、お前たちを意味なく傷つけることは出来ない。俺には戦う理由がない」

「本当に、お前は馬鹿で能天気だな。これは権力争いだ。どちらが強いか。強い者がこの世を制する。そこに戦いは不可避だ。もうこれくらいでいいだろう? 楽しいおしゃべりは終わりだ」

 黒熊使いが言うと、仲間に目配せした。先に動いたのは黒鹿と黒豹。素早い動きで義則に襲いかかったが、くろが黒鹿に、銀色の犬たちが義則の影から現れて、黒豹に食らいついた。その隣では、黒牛と黒狐、黒熊が雪兎ゆきとに向かって飛び掛かったが、はくの尻尾で薙ぎ払われた。大きさの差があり、黒い魔獣たちは分が悪いように見えるが、すぐに体制を整えて反撃に出た。彼らははくの力量を測るため、様子を窺っていただけだった。強い霊力を持つ黒い魔獣たちは、その姿を大きく変貌させた。身体の大きさだけでなく、その姿は見知った動物ではなく、魔獣そのもので、言葉でそれを表現するのは難しいが、奇妙で異様な姿だった。

「へえ~、凄い気迫だね。はく、今日は思いっきり暴れてもいいよ」

 雪兎が笑顔で言うと、はくは咆哮し、辺りの空気を震撼させた。それでも黒い魔獣たちは動じることなく、はくに向かっていく。大きくなったとはいえ、はくの巨体と比べてしまえば、黒い魔獣たちは小さく見えた。しかし、彼らの霊力は強く、その攻撃によってはくの巨体が地面に叩きつけられた。

「やるじゃない。はくまだいけるでしょ?」

 雪兎の言葉に、はくは鎌首をもたげ、まずは黒狐を咥えて首を大きく振って、地面に叩きつけた。黒熊はその時、はくに近寄りその頭を拳で殴りつけた。そして、黒牛は突進してはくの頭に頭突きを食らわせた。はくは立て続きに頭を攻撃され、しばし混乱状態となった。

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