第23話

 朔太郎さくたろうと出会った日から、一週間が平穏に過ぎていった。

「なあ、雪兎ゆきと。また、魔獣を連れて歩いてみないか?」

 下校時に義則よしのりが聞いた。

「僕はあやちゃんを危険な目に遭わせたくはないからね。家に送った後なら付き合うよ」

 と雪兎は答えた。

「そうか。じゃあ、絢を送ってから、俺んちへ来いよ」

 義則が雪兎に言うと、

「あたしも魔獣操士だよ?」

 美姫みきは義則たちと一緒に行動したいようだが、

「お前も帰れよ。相手と戦うことになるかもしれないからな」

 義則は美姫にそう言ってから、

あお、お前はしっかり美姫を守れよ」

 美姫の魔獣の青犬あおいぬに言った。

『お前の指示は受けない。言われなくても、我は美姫を守る』

 と美姫のスクールカバンから、ちょこんと顔を出した可愛い見た目に似合わず、つっけんどんに言い放った。

「そうか。それなら安心だ。美姫、お前は俺にとって大切なんだ。だから、大人しく帰ってくれよ」

 その言葉に美姫は、

「は~い」

 と可愛く返事をして、帰って行った。


 雪兎は絢を送り届けたあと、約束通り義則の家へ来た。

「おう、行こうぜ」

 そう言って、義則はくろを従えて繁華街の方へ足を向けた。雪兎も普段はペンダントに収めている白龍はくりゅうを出していて、その巨体が通りを埋め尽くしていた。

「ほんと、お前の白龍、でっかいなあ」

 魔獣が見える者には、異様な光景に違いない。

「そうだね。大きすぎて目立つから、あんまり出してあげていないんだ。だから、こうしておもてに出るとはくは嬉しいんだよ」

「そうだろうなあ。そんな小さな所に入っているなんて可哀想だ。時々、こうして散歩しようぜ」

「これ、散歩だったの?」

 雪兎が笑った。

はくはね、あんまり人には懐かないし、気をやることはないんだ。でもね、君の事は好きみたい。君と会うと嬉しそうにしているんだよ。ほら、はくが微笑んでいる」

 雪兎がそう言って、はくを見ているが、義則には今、はくが笑っているのか分からなかった。

「そうか、それはよかった。はく、これからもよろしくな。雪兎、はくに触ってもいいのか?」

 義則が言うと、

「うん。むしろ、触って欲しいって」

 雪兎が言って、はくは義則に顔を寄せた。

「そうか!」

 義則は嬉しくなって、はくの大きな顔に抱きついて頬擦りして、手で撫でた。龍に触れる事なんて、またとないチャンスだった。

「ほんと、お前はかっこいいし、綺麗だな」

 義則はそう言って褒め称えると、はくは目を細めた。

はく、そんなに嬉しいんだね。良かったね」


 暫くそうして歩いていると、

『魔獣がいる』

 はくの目がきらりと光った。

「そうだね。義則君、ここだと目立つから、場所を変えようか?」

 雪兎が言った。

「おう。それなら、そこの角を左へ曲がって、川まで行こう」

 義則たちが繁華街から出て、大きな川の河川敷へ出ると、魔獣操士たちは彼らのあとをついて来た。

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