第56話

 次の日に、男は間宮の屋敷へしょっかれた。

「お前の名は、佐々木ささき信輝のぶてるに間違いないか?」

 間宮まみや鱗十郎りんじゅうろうが聞くと、男は、

「はい」

 と素直に答えた。

「罪状に相違そういはないか?」

 義則よしのりが報告した内容を箇条書きにした罪状を読み上げて、間宮が問うと、

「ありません」

 と佐々木が答える。

「では、お前に刑を処する。謹んで受けよ」

 高座から言う間宮に対し、佐々木は深く頭を下げて平に伏した。それを見た義則よしのりは思わず、

「いよっ! 名奉行めいぶぎょう!」

 と声を上げた。

「黙れ! 犬使い!」

 間宮は厳しく言ったが、僅かに口角は上がっていた。


 お白州しらすが閉廷し、集まった者たちも解散となった。罪人の佐々木ささき信輝のぶてるは服従の契約を課せられ、更には呪術の制限をかけられ、間宮への反逆はないと判断し、自宅へ帰ることを許された。

「ほんっと、間宮の裁きはかっこよかったぜ。だんだん、あいつのことがお奉行様に見えてきた」

 義則が言うと、

「ほんっと、よっしーったら、時代劇好きだよね~」

 美姫みきが笑いながら言った。

「おじいちゃん子だもんねえ」

 とあやも笑う。

「そうなんだね。僕は時代劇、見た事ないからよく分からないけど」

 と雪兎ゆきとが言う。

「お前、間宮のこと、好きじゃねえって言ってたんじゃなかったか?」

 峰人みねひとが言うと、

「おう、最初はな。王様みたいに偉そうで、何か鼻につくっていうかさ。でも、あんなんだから、誤解されやすいんだ。あいつ、本当はいい奴なんだぜ」

 と義則はだいぶお気に入りのようだが、その理由は、お奉行様に見えるからだろう。


「これで、一件落着だな」

 義則が言うと、

「本当にそうかな?」

 と雪兎が言う。

「どういう事だ?」

 義則が問うと、

「う~ん、よく分からないけど、これで終わりな気がしないんだ」

 と雪兎が答えた。

「そうか? 佐々木が首謀者じゃないって事?」

 義則が言うと、

「そう言われると、なんか、あいつは小者感があるな」

 と峰人が言う。

「それじゃあ、黒幕が他に居るって事か?」

 義則が聞くと、

「そうかもしれない」

 と峰人が答えた。一同、考え込み、沈黙が続いた。


 それから数日経ち、あおいの屋敷へ義則たちが集まった。

「へ~、さすが龍使いの家は違うなあ」

 朔太郎さくたろうは敷地に入ると、その素晴らしい庭に感嘆の声を上げた。

「広いだけじゃない」

 としずくは呟き、

「やっぱ、龍使いはみんな、豪邸に住んでいるのね!」

 美姫は目を爛々と輝かせて、キョロキョロと辺りに目を向ける。絢と雪兎は黙って歩き、隼人はやとは呆れ顔をして、

「騒ぐな。品がないぞ」

 と彼らに注意した。義則は以前のようにはしゃぐことはなかったが、この庭の景色はとても気に入っていた。もちろんくろもここの空気が好きで、義則のポケットから飛び降りて、短い脚でちょこちょこと歩いていた。

くろ、嬉しそうだな」

 義則はそんなくろを見て、笑顔で言った。しばらく歩くと、洋館が見えてきて、

蒼佑そうすけ様はあちらでお待ちだ。お前ら、くれぐれも、失礼のないようにしろよ」

 と隼人は友人たちに言った。今日ここへ来たのは、義則、雪兎、美姫、絢、隼人、雫、朔太郎。峰人みねひとは社会人なので、仕事で来られない。世玲奈せれなは間宮の屋敷へ行っているのだった。

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