第37話

 それから数日後、何事もなく穏やかな日常が続き、義則よしのりたちも学校生活を楽しんでいた。

「おい、雪兎ゆきと。あいつ、この間の五龍会の招集で見たぞ。知っているか?」

 義則が校内である少女を見つけて言った。

「うん、知っている」

「俺、ちょっと声かけてくるぜ」

 と言う義則の腕を掴んで、

「やめた方がいい」

 と雪兎が引き留めた。

「何でだ?」

「気難しいんだ」

 とぽつりと言った。

「それでも、ちょっと話してくるぜ」

 義則は、雪兎の手をそっと押し返して、少女のもとへと駆けていった。

「よう! この間会ったよな」

 と声をかけると、少女は怪訝な表情を向けて、

「会ってないわ」

 と答えた。

「ほら、黄龍んちでさ」

 と言うと、その瞳がきらりと光り、

「知りません」

 と言った。その時、彼女の身体に白い狐が纏わるように現れ、

『去れ』

と義則に鋭い視線を向けた。すると、くろが現れ、

あるじに命令するな、狐め!』

 と言って、白狐に凄む。

「おい、おい、仲よくしようぜ。俺、高木義則。お前は?」

 と少女に名前を聞いたが、

「答える気はない」

 と冷たく返された。

「そうか。友達になりたかったのになあ。また、声をかけるよ。今日はちょっと、恥ずかしいだけだろう? じゃあ、またな!」

 と言って、義則は少女から離れて、雪兎のもとへ行くと、

「俺、あいつになんか嫌な事した覚えはないんだがな。なんで、避けられてるんだ?」

 と聞くと、

「君が僕と一緒にいるからだよ」

 と雪兎が答えた。

「なんだ、お前。あいつに嫌われているのか? なんかしたのか?」

 と義則が聞くと、

「彼女、僕のもと許嫁いいなずけだよ」

 とさらりと言った。

「えっ⁉」

 これには義則も驚き、彼女を振り返ったが、そこにはもういなかった。

「どういうことだ⁉」

 義則が聞くと、

「今、その話しする? 長いけど?」

 雪兎が言った時、昼休みの終了を告げるチャイムが鳴った。


 雪兎の話が気になって、午後の授業は全く頭に入らなかった義則は、放課後になると、

「さっきの話の続きだが、あやに聞かれるとまずいだろう?」

 と雪兎を捕まえて、声を潜めて言った。

「絢ちゃんは知っているよ。僕から話した。隠し事なんてしないさ」

 と雪兎はあっけらかんと言った。


「え? なに、なに? 男の子だけで内緒の話し?」

 美姫みきが後ろから近づいて、にやつきながら義則の腕に自分の腕を絡ませて言う。

「聞かせなさいよ~、その話し。ねえ、絢?」

 美姫は絢を振り返って言った。

「雪兎君? 何の話をしていたの?」

 絢が聞くと、

「僕の元許嫁の話を、義則君が聞きたいってさ」

 と雪兎が答えた。

「ふ~ん」

 と言う、絢はどんな気持ちなのかと、義則は気掛かりで仕方なかったが、

「ここじゃ、なんだから。いつものカフェでね」

 と明るく言う絢を見て、少しほっとした。


「それで、どうして、よっしーがそれを知りたがっているの?」

 絢が聞いた。

「今日の昼休みに、彼女を見かけて、義則君が声をかけたんだ」

 雪兎が言うと、

「よっしー、誰彼構わず声かけるからね」

 と絢が笑った。

「だってよー。あいつ、この間、会ったんだぜ。声ぐらいかけるだろう普通」

 義則が言うと、

「まあ、それがよっしーだもんね。それで、その子と何を話したの?」

 今度は美姫が義則に聞く。

「名前を聞いたんだけどさ、教えてくれなくて、なんか、ちょっと怒ってるみたいで。よく分からない奴だと思ったけど、雪兎の元許嫁だって言うじゃないか。そういうの、先に言ってくれよ。あの子、気を悪くしたんだろうなあ」

 義則が言うと、

「よっしー、雪兎君が止めたのに話しかけに行ったんじゃないの?」

 と美姫が見てきたように言う。

「そうだけどさあ、なんか俺、あの子に悪いことしちゃったな。今度会ったら謝るぜ。それで、雪兎、元許嫁の話を聞かせてくれよ」

 義則が真剣な顔で聞いた。

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