第40話

 食事が済み、片づけを終えた母が居間へ来て座ると、

「私の見解を聞いてくれますか?」

 と言って、語り出した。

「魔獣操士の歴史は古く、魔獣を操る者が人々を制圧してきた過去があります。未だに、魔獣操士は魔獣を持たない者たちの上に立つという考えを持つ者もいます。そして、魔獣の強さがその階級を決めています。今は黄龍が一番強く、王座に君臨しています。しかし、黄龍よりも更に強い魔獣がこの世の中には幾つか存在します。ただ、強すぎる魔獣は人に従わせることは出来ず封印されていますが、封印されず所在も分からない魔獣がいる事を思い出してください」

 とここで、言葉を切り、祖父へ視線を向けた。

麒麟きりん

 と祖父が答えると、

「そう、麒麟です」

 と母が言う。

「きりん? って動物園にいる首の長い奴だよな? あれは魔獣じゃないだろう?」

 義則が言うと、

「それは違うキリンだね。お義父さんの言う麒麟は霊獣だよ」

 と父が答えた。

「しかし、麒麟は今まで現れていない。誰もその存在を確認していないんだ」

 祖父が言うと、

「ええ、そうね。だからこそ、それを欲する。その麒麟こそが黄龍なのだという説があるのです。敵が欲しているのは王の座ではなく、麒麟なのではないかと思うのです。麒麟を手に入れれば、すべてを手に入れたようなもの。幸運も財運も麒麟がもたらすという」

 母が持論を述べた。

「まさか、そんなことが……」

 と祖父は言葉に詰まった。

「それじゃあ、母さん、誰がそれを欲しがっているんだ?」

 義則が聞くと、

「それは私にも分かりません。間宮さんも敵を探っていることでしょう。それでも、尻尾を掴ませない。ならば、それは誰にも疑われない者なのかもしれないですね」

 と母が言う。

「それって、つまり、俺たちが疑わず、信頼している奴が真の敵って事か? そんなの嫌だぜ。間宮の黄龍を奪おうとするのは悪い事だ。俺が信頼している奴がそんなことをするなんて考えたくない。間宮は奪おうとする者と戦うだろう。俺は友達の味方をして、黄龍を奪うのを手伝いたくはない。俺の正義は、みんなが幸せになる事なんだ!」

 義則が思い描いた敵に雪兎ゆきとを重ねていた。

「俺、雪兎の所へ行ってくる」

 と義則が言うと、

「俺も行こう」

 と祖父が言った。

「何言ってんだ? じいちゃん。しろを連れて行く気か? うちのセキュリティはどうするんだよ?」

 祖父の魔獣の白犬は常に高木家の結界を張る役目を担っている。連れて行くとなると、その結界は解かれる。

「しかし、お前ひとりで行くのは危険だ」

 祖父が言うと、

美姫みきあやを連れて行く。あいつらだって魔獣操士だ。それに、雪兎の友達なんだ」

 と義則が答えて、銀色の犬を向かわせて二人を呼び出した。

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