第20話

 美姫みきに魔獣が付いたことは、魔獣が見えるあや雪兎ゆきとも知る事となった。

 ある日の放課後、四人でカフェにいる時、

「いいなあ、美姫。いつもあおを連れていて」

 絢がふと、そんな言葉を漏らすと、絢の隣でカフェオレを飲んていた雪兎が、

「ごめんね。僕には絢ちゃんにあげられる魔獣はいないんだ」

 と悲しそうに言った。

「え? いいよ、いいよ。そんな意味で言ったわけじゃないから。なんか、可愛い小動物を連れていてって……。そうね、ちょっと羨ましかった。でも、いいよ。雪兎君、気にしないで」

 絢が言うと、雪兎の白い顔が余計に白くなる。

「まあ、雪兎。あまり気にするな。絢の事はお前が守れば問題ないだろう? そのために毎日、絢の送り迎えしてんだろう?」

 義則よしのりが言うと、

「うん。僕は出来る限り絢ちゃんの傍に居る。なんなら、白龍を付けるよ」

 雪兎はそう言って、ペンダントを絢へ渡そうとした。

「雪兎君、それは無理よ。私には白龍は操れない。気持ちだけ受け取っておくよ」

 絢は差し出されたペンダントをそっと押し返して、

「ありがとう、雪兎君」

 と笑顔を向けた。


 その帰り道、また魔獣狩りが現れた。

「お前の魔獣を置いていけ」

 一人の若い男が道を塞いで義則たちに言った。

「お前、一人で俺たちを相手にするには分が悪いぜ」

 義則が言うと、

「それはどうかな?」

 と男は強気な発言をした。その時、後ろにいた美姫と絢が悲鳴を上げた。義則が振り返ると、彼女たちの足元には大量の蜥蜴とかげうごめいていて、その足に登っていく。

「きゃ~! よっしー、何とかして!」

 美姫もこの手の生き物は苦手だった。

「美姫!」

 義則が声をかけて、美姫を抱き上げ、足に登ってきていた蜥蜴を手で払い落とした。

「もう大丈夫だ」

 絢はというと、既に雪兎の白龍の背に乗せられていて無事だった。とはいえ、これはただの蜥蜴で、まったく害はない。しかし、義則は敵に背を向けて無防備だった。蜥蜴を出したのは、彼らの気を逸らし、隙を作ることが狙いだった。義則の背後に蜥蜴使いが魔獣で攻撃を仕掛けようとしたが、

『蜥蜴如きが』

 くろが姿を現し、蜥蜴に噛みついた。鋭い牙が深く突き刺さり、首を振って投げ飛ばした。蜥蜴は深い傷を負ったが、しっかりと着地して黒を睨んだ。傷口はゆっくりと塞がっていく。

「なんだ、やるじゃないか。雪兎は手を出すなよ」

 義則はそう言って、美姫を抱きかかえたまま口笛を吹いた。すると、義則の影からゆらりと銀色の獣たちが姿を現した。

「美姫は蜥蜴が苦手らしい。美姫を怖がらせたあいつを、ちょっと懲らしめてやれ」

 義則が言うと、銀色の獣たちは一斉に蜥蜴に食らいついた。

「おい! 何だよそれは! お前の魔獣、多すぎじゃないか! チートかよ!」

 蜥蜴使いは、負けを覚悟して叫び、

「やめてくれ! 俺の蜥蜴を殺すな!」

 と懇願した。

「心配するな。甘噛みだ。勝負は俺の勝ちだと認めるな?」

 義則が言うと、

「認めるから、お前の犬を引っ込めろよ」

 と蜥蜴使いが言った。

「お前ら、もういいぞ。戻れ」

 義則は銀色の獣たちに言って、

「お前、なんで魔獣狩りなんてしてんだ? 黒猫使いの命令か?」

 蜥蜴使いに質問した。

「ああ、そうだよ。だからなんだ? その犬をくれるのか?」

 蜥蜴使いも雫と同じことを言った。

「やらねえよ。こいつらは物じゃない」

「俺を殺すのか?」

 力量の差を痛いほど知った蜥蜴使いは、己の命もこれまでかと諦めたような顔をした。

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