第17話

 家に着くと、義則よしのりは家族を集めて、美姫みきに魔獣を付けることを相談した。

「そうね。美姫ちゃんには魔獣が見えるし、これから先、危険な目に遭うかもしれないものね。お父さんはどう思いますか?」

 母が聞くと、

「そうだな。美姫ちゃんにその資質があるならば、それが運命なのだろう。試してみるか?」

 と祖父が答えた。

「よし、そでじゃあ、決まりだな」

 さっそく美姫を封印の間に連れて行こうとする義則を、祖父が制して言った。

「待て、待て。俺たちだけでは決められない。美姫ちゃんのご両親の了承を得てからだ」


 翌日の夕方、高木家に二宮にのみや家を夕食に招待した。二つの家族は隣同士で、長い付き合いでもあり、美姫と義則が同い年なこともあって、交流の深い仲だった。

「それで、本題ですが」

 食事が済むと、義則の祖父が口火を切った。魔獣が見える美姫とその母は、遠い祖先に魔獣操士がいるかもしれないという話は、昔していた。そして、今日の本題について、高木家の意見として、美姫の身を守るすべに魔獣との契約を提案した。

「そうですか。美姫から話しは聞いていました。魔獣狩りをする者が現れて襲われたと。魔獣を持たない美姫が危険な目に遭うのは、私たちも心配です。魔獣が見える美姫には、これからもこういうことが起こるかもしれないということですね? きっと、これも運命なのでしょうね? 身を守るすべが必要と言うのなら、おじさまの言う通り、美姫に魔獣を付けて頂きましょう。ねえ、それでいいでしょ? パパ?」

 美姫の母は、隣に座る夫に聞いた。

「ああ、それでいい。私には魔獣が見えないが、何かいる事は分かる。そして、これから何かが起こるという事ですよね? その危険な状況で、美姫は身を守るために魔獣との契約を交わす必要がると」

 魔獣が見えない美姫の父だが、昔から魔獣の存在は信じていた。魔獣が現れる時、風が生まれるのを感じたことが何度もあった。

「それでは、これから美姫ちゃんに魔獣契約をさせて頂きます。その間、こちらで待っていてください。美姫ちゃんと義則と俺は封印の間に」

 祖父がそう言って、三人は封印の間へ向かった。


 封印の間には照明はなく薄暗かった。奥の台には二つの水晶球が置かれていて、それは妖しく光っていた。赤く光る球と、青く光る球。

「さあ、美姫ちゃん奥まで行って。ここに二つの球がある。それぞれに一体の魔犬が封印されている。どちらか選んで」

 祖父が言うと、

「そうね。青色が好きだから、青にする」

 と美姫は即答だった。

「それじゃ、儀式を始めるから、青色の水晶球に手を置いて。契約の言葉を言う。俺の言った言葉を言えばいい」

 と祖父はそこで一度、言葉を切り、

「先に言っておくけれど、言い方が古いのはいにしえの言葉だからだ。美姫ちゃんの意思を伝える事で、魔獣を従えることが出来る。ただし、美姫ちゃんの霊力が弱いとか、魔獣が美姫ちゃんを認めなければ、契約は成立しない。では、始めるよ。次の言葉を言うんだ。『汝、我に従い、我に服従することを誓え』」

 と説明した。

「分かったわ。でも、その言葉はちょっと酷くない? 無理やり服従させるだなんて、あんまりじゃない。あたしは服従なんて望まない。ただ、あたしを守ってくれるだけでいいのよ」

 美姫は青い水晶球に手を置いたまま言った。すると、水晶球は更に青く強い光を放ち、

『承諾した』

 と答えた。

「え? 何か言った?」

 美姫が水晶球を見ると、そこからぬるりと獣が姿を現した。それは青く光り輝く美しい毛並みの大きな犬だった。

「うわあ~、綺麗。あなたがあたしの契約魔獣ね? 青ちゃん、よろしくね」

 美姫は嬉しそうに青い獣の身体を撫でた。美姫に撫でられた青い獣は、目を細めてあるじに従順さを見せた。

「契約成立だな」

 祖父はぽつりと言った。

「そうか! 良かったな美姫」

 義則が嬉しそうに言うと、

「うん!」

 美姫も嬉しそうに答えて、

「パパとママにも見せてくる!」

 と封印の間を出て行った。

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