第18話
「魔獣契約って、こんなにも簡単なものだったか?」
「お前の時とは、だいぶ違ったな」
と祖父が笑った。
義則が魔獣契約を結んだのは、彼が五歳の時だった。今から十年前だ。祖父の
義則には黒い魔犬と契約を結ばせた。今は仲良しではあるが、魔獣契約は簡単なものではなかった。まだ幼い義則に魔犬が簡単に服従などするはずもなく、何度も契約に失敗した。
美姫は魔獣と契約し、青い魔犬を連れて、その喜びを全身で表し、踊るかのように両親の待つ居間へと戻った。
「パパ、ママ! あたしの素敵な魔犬、
と美姫が言うと、
『美姫と契約を交わした。我の名は……
と少し戸惑いながら、みんなに自己紹介した。
「まあ、素敵な魔犬ね。美姫、良かったわね」
美姫の母が笑顔で言うと、
「良かったな、美姫」
と魔獣が見えない美姫の父も嬉しそうに言った。
「美姫ちゃん、もう契約できたんだね」
義則の父も優しい笑顔を向けて言った。
「美姫ちゃんは魔獣操士の資質が高いのでしょうね。とても良いことだわ。
義則の母は、そう言って笑みを浮かべた。
『本当に、良かったわ。これで安心ね』
と義則の祖母の霊魂が言った。
無事に魔獣契約を結ぶことが出来て、二宮家は自宅へ帰って行った。
「それにしても、美姫は凄いな。まさか、あんなに簡単に契約出来るとは思わなかった」
義則が言うと、
『美姫はああ見えても、強い霊力と精神力を持っている。その強さをあいつは認めたんだろう。当然の結果だ』
と
「そうなのか? 俺の時は、お前に何度も契約を拒まれたぞ。大変だったんだからな」
『当然だろう。まだ赤ん坊みたいなお前に、何故この俺が服従などしなければならない』
「そうはいうけど、お前、結局俺と契約してくれたじゃないか」
『ふんっ。お前が哀れだったからな。同情だ』
「同情だって? お前、照れてんだろう? 俺との友情を恥ずかしがるなよ~」
義則はそう言って、隣にいる大きな黒い獣を無茶苦茶に撫でまわした。
『やめろ。毛並みが乱れる』
黒はそう言いながらも、目を細めて尻尾を振って喜んでいた。
「はははっ。撫でられて嬉しいくせに。そういうところも可愛いぞ」
言葉は素直じゃないが、身体が素直に喜んでいる黒が可愛くて仕方ないというふうに、義則は黒を抱きしめて頬擦りした。
『やめろ』
黒は心とは真逆な言葉を言う。
「嬉しいんだな」
義則には黒の心はお見通しだった。
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