第16話

「俺、しずく雪兎ゆきとを送って行くよ。父さん、車出してよ」

 義則よしのりが言った。送って行くと自分で言いながらも、結局は父の車で送るのだった。駅まで二人と、雫の従者を送ると、

「それじゃ、またな雫。雪兎は明日、学校で」

 と二人に声をかけて別れた。

「なあ、父さん。なんで雫は加藤家が嫌いなんだ?」

 義則が聞くと、

「さあね。私には分からないけど、きっと雫さんには辛い事があったんだろうね。彼女が話してくれるまでは、そっとしてあげなさい」

 と父が言った。

「分かった」


 次の日の朝、

「よっしー! おはよう!」

 美姫みきが義則を迎えに来た。

「おはよう、美姫ちゃん。義則は今支度をしています」

 母が言うと、

「おばさん、上がっていい?」

 美姫が言って、

「どうぞ」

 と母は笑顔で答えた。美姫は玄関を上がって、靴を揃えて洗面所に向かった。

「よっしー! 早く行こうよ~」

 美姫が義則を急かすと、

「今、髪を整えているんだ。もう少し待ってろ」

 と丁寧に髪を整えて、鏡に映った自分を色々な角度から見て確認している。

「ほんっと、よっしーったら、髪型には気を遣ってるよね~」

 そう言って美姫は笑った。美姫の髪は天然パーマで、常にクルクルと強いカールがかかっている。手櫛てぐしいて、艶を出すためにヘアーオイルを少し付けて終わる。時間はほとんどかからない。それに比べて、義則は美姫の何倍も時間をかけているのが可笑しくて堪らないのだ。

「身だしなみは大事だろう」

 義則はそう言ってから、

「よし、完璧だ。今日も俺、いい男だぜ」

 と自分を褒めた。これも毎朝の習慣なのだ。

「うん、うん。よっしーはいい男だよ。さあ、行きましょう」

 美姫はそう言って、義則の腕にしがみついた。


 二人で家を出ると、

あやはどうした?」

 義則が聞いた。

「絢はね、雪兎ゆきと君が迎えに来てもう出かけたのよ」

 と美姫が答えると、

「何でだ? 学校を通り越して迎えに来る必要があるのか?」

 義則には、雪兎が無駄に遠回りする意味が分からなかった。絢の家は学校から十五分離れている。雪兎は駅から学校までバスで通学している。そこから十五分歩いて迎えに行き、また学校まで十五分歩くことになる。

「雪兎君、絢と一緒に学校へ行きたいのよ。二人は恋人同士なんだから、時間をかけてでも迎えに行く意味はあるのよ」

 美姫に言われて、

「そんなもんか?」

 と言いながら義則は、雪兎と絢が仲良くしているのはいいことだなと思った。


 その日の帰り道で、

「ねえ、よっしー。これから危険なことが起ころうとしているのよね? あたしに黒ちゃんを付けてくれるのは嬉しいけど、あたしも自分の身は自分で守りたい」

 美姫はいつになく静かに話した。

「そうだな。これから大きな戦いが始まるのなら、お前にも魔獣を操ることが出来れば、俺も助かる」

 義則が言うと、美姫は目を輝かせて彼を見上げた。

「ほんと⁈」

「ああ。ただ、魔獣と契約を結べるかは分からない。続きは帰ってからだ」

 義則は先日、白蛇使いのしずくに襲われた時、美姫の身を守るために、彼女も魔獣操士にすることを考えていた。ただ、魔獣との相性、魔獣が契約に応じるかが最大の問題だった。魔獣操士にはその資質がなければならない。黒の見解では、美姫には魔獣操士の資質は備わっているとのことだった。ただ、魔獣契約を試みてみなければ、成功するかしないかは分からないのだという。義則の家には、まだ契約可能な魔獣が眠っている。その中から、美姫に合う魔獣がいれば、契約を交わし、美姫も魔獣操士になれるはずだと義則は思っている。

「今日、このまま、俺んちへ来いよ。じいちゃんに話してみる」

「うん」

 美姫は嬉しそうに義則を見つめた。

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