第50話

 数日後、義則よしのり隼人はやとの神社を訪ねた。

「ちわーっす」

 社務所で声をかけると、隼人の姉の美園みそのが巫女姿で出て来て、

「いらっしゃい。どうぞ上がって」

 と義則を快く迎えた。

「おじゃましまーっす」

 部屋へ通されると、そこには隼人の父の義人よしとと、その弟の正人まさとがいた。

「やあ、いらっしゃい、義則君」

 と言ったのは正人で、

「隼人は留守だが、まあ、座って」

 と義人が言った。

「え? あいつ、いないの?」

 義則はそう言って座った。

「先日の件では、君に世話になったと聞いたよ」

 と義人が言うと、隣で正人がにたりと笑う。

「うっ、そうっすね。まあ、気にしないで下さい」

 義則は義人に口移しで霊力を送った事を思い出して、歯切れの悪い返事をした。そこへ、美園が盆を持って入ってきて、

「お茶をどうぞ」

 と義則にお茶を出した。

「おう、頂きます」

 義則はゆっくりお茶をすすって、

「隼人、どこ行ったんすか?」

 と話を切り替えると、

あおいさんのお宅へ行っているよ」

 と義人が答えた。

「そうっすか。それじゃあ、俺も葵んちへ行きます。おじゃましました」

 そう言って、義則は葵の家へ向かった。


「また、あの話されるとはな。参ったぜ」

 とくろに言うと、

『ふんっ、くだらないな』

 と興味なさそうに答えた。今日も義則はくろの背中に乗って、便利な移動手段として使っていたが、くろも別に文句は言わなかった。葵の家の前で降りると、義則は躊躇なくインターホンを押す。

「高木義則っす。隼人が来てるって聞いて、遊びに来ました」

 と言うと、警備員がカメラで義則を確認して、

『どうぞ』

 と返事があり、中へ通された。

「池谷様は、洋館にいらっしゃいます。どうぞこちらへ」

 と黒服の男が案内した。

「やっぱ、すげーなあ」

 義則はそう言って、辺りを見回す。広い敷地に森のように木々が植えられ、開けた場所には池があり、橋が架かっている。くろもここの清々しい空気が好きなようで、深呼吸して気持ちよさそうにしていた。

くろもここが好きなんだな」

 義則はそう言って、くろに笑顔を向けた。


「どうぞこちらへ」

 黒服が言うと、洋館の前まで来ていたことに気付いた。

「おう、ありがとう」

 義則が礼を言うと、男は役目を終えて、戻って行った。

「やあ、いらっしゃい。どうぞ入って」

 葵がそう言って、義則を招き入れた。客間のソファーに隼人が座っている。

「高木君も座って」

 と勧められて座ると、給仕の者がお茶を運んできた。葵は隼人の隣へ座り、

「隼人から聞いたよ。白龍の事。大変だったね。仲間が駆け付けてくれたようだけど、僕は呼ばれなかった」

 と言った。

「あっ、忘れてた。あんたも呼べばよかったな」

 と義則がはっとして言うと、

「呼ばなくて良かったんだ。あんな邪悪な者と戦う場に、蒼佑そうすけ様を呼ぶなんて、俺が許さないよ」

 と隼人が言った。

「隼人、僕をのけ者にしないで。お前が倒れた時、傍に居られないのは辛いよ。高木君、今度、隼人を呼ぶときは、僕も一緒に呼んでよ」

 葵はそう言って、隼人を抱きしめた。

「おう、今度からはそうするぜ」

 義則が言うと、

「おい!」

 と隼人が言いかけたのを、葵が彼の口を自らの口で塞いで、

「隼人、僕を拒むのか? 僕はいつも一緒に居たいのに、お前は嫌なのか?」

 と隼人に問う。

「そんな! 誤解です。俺はあなたを大切に想っているのです。だから」

 隼人が言うと、葵は再び彼の口を塞ぐ。義則は目の前で睦み合う二人を見て、

「俺、なんか、おじゃまみたいだから、帰ろうかな?」

 と言う。

「そうか。お構いなしで悪かったね」

 葵も、引き留めはしなった。

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