第7話 ウィンチェスター銃M73
つい条件反射で大声を出したけどさ、まあなんとなく分かってたよ。
だってグロック17を願ったらSAAが出てきたのにさ、M4カービンを願ったらM4カービンが出てきましたって、そりゃそうはならんよね。
なんにせよこれで火力は一気に向上したぞ、装弾数はSAAの倍以上の14発もある。
そして交戦距離も問題なしだ。
M73はSAAと同じ.44-40弾を使用するが、SAAよりも銃身長がはるかに長い。
銃身内で燃焼ガスの圧力を受ける時間が長い分、弾速が向上し射程も長くなっているのだ。
よーし、アイツらに目にもの見せてやる。
「ミン、伝令を頼む。オットーを捜して指示を伝えろ」
「うん、なんて伝えるの?」
「今から俺の魔法で傭兵どもを撃ち殺す。村人には追撃の準備をさせろ」
「すごい、ご主人様!」
ミンはキラキラした目で俺を見つめた後、指示を思い出したのかハッとして階段を駆け下りていった。
うーん、俺が荒事をこなすほどミンの俺に対する評価が上げるわけだが、果たしてミンの情操教育はこれでよいのだろうか?
まあ、それは後で考えよう。
M73のレバーを引き下げて初弾を薬室に送り込み、俺は窓枠に肘をついて射撃姿勢をとる。
さて、こいつらの頭目はどいつだ?
なんか雑然としてて指揮系統が見えてこないな。3つの傭兵団が集合してるとか言っていたがそのせいか?
まあいいか、全員撃ち殺すつもりでいこう(過激)
轟音。
黒色火薬の燃焼ガスが弾丸を銃身内で加速させる。
「げっ!?」
銃口を飛び出した44口径弾は、斧を振りかざした傭兵の胸に着弾して風穴を開ける。
斧を取り落とした男は、数歩よろめいた後バタリと仰向けに倒れた。
お、初弾から命中。こいつは幸先がいいぞ。
レバーを操作して次弾を装填すると同時に、チャンバーから空薬莢が真上に排出される。
ストックを肩に当てて反動を吸収しているので狙いが安定する上、手首がまったく痛くならないのは素晴らしいな。
「やられた、例の雷魔法だ!」
「落ち着け!魔法使いは一人だ、そう何度も魔法は使えねえ!」
ほうほう、連中の常識ではそうなのか。しかしそれはどうかな?
轟音。
轟音。
「ぎゃあ!痛てぇえ!」
「ちきしょう、魔法が見えねえぞ!雷の音だけだ!」
窓枠に身体を押しつけて固定し、右手だけを動かしてレバーアクションする感覚も分かってきた。
ドンドンいくぞ。
轟音。
轟音。
轟音。
バタバタと傭兵どもがひっくり返っていく。
レバーアクション、狙う、撃つ、レバーアクション、狙う、撃つ。3秒に1回のペースでM73が唸り声をあげる。
やはり銃を知らない集団というのは、散開するという発想を持たないらしいな。
連中が密集するあたりに適当に弾丸を撃ち込むだけで、おびただしい量の血が大地に流れていく。
「おい、魔法使いは一人なんじゃねえのかよ!?」
轟音。
轟音。
轟音。
「は、話が違ぇぞ」
轟音。
轟音。
轟音。
「やめろ、俺は死にたくねえ!」
「誰か…血を、止めてく…れ…」
チューブマガジン内の装弾を撃ち尽くす頃には、眼下の集団はすっかり恐慌状態に陥っている。
俺は『銃召喚』で.44-40弾を生み出し、M73の側面に開いた装弾口から弾薬を挿し込んでいく。
装填と同時に空薬莢は排出されているので、いつでも好きなタイミングで弾薬を補充できる。
この機能性には感動すら覚えるな。
やはりレバーアクションはライフルの革命なんだなぁと、しみじみ。
「魔法が止んだぞ!これでヤツは魔力切れ、ぺぅ」
傭兵どもを鼓舞している男の脳天に会心のヘッドショットが決まった。
モザイクを必要とするゴア表現オブジェクトが生まれ、さらに死の雷鳴が再開したことで傭兵どもの士気は崩壊した。
攻囲陣の前方から始まった潰走の波が、集団全体へと不可逆的に広がっていく。
あっけないが、防衛戦としてはこれで終わったな。
「オットー! 今だ、行け!」
「みんな続け、突撃ぃ!」
オットーが槍を振り上げて真っ先にバリケードを踏み越える。
「うおおおお!」
「逃がすなぁ! ぶっ殺せぇえええ!」
バリケードの後ろに伏せていた村人たちが一斉に繰り出していく。
相変わらず血の気が多いなこいつら。
スローライフと言えば村人、という認識を修正せざるを得ない。
俺のスローライフを構築する際は、村人も穏やかな人を厳選しよう。
村人の突撃を援護する射撃を3度行ったのち、俺は射撃姿勢をといた。
有効射程を外れつつあるし、これ以上は誤射が怖い。
俺の仕事はここまでだな。
というかもう目の前が白くて目標が見えねえ!
室内に黒色火薬くんの発射煙が充満してケムイケムイなのだった。
「ケホッ! ご主人様、ケホ、ケホ、前が見えな、ケホッ!」
「ミン、ゲホ! 伝令ご苦ろ…、ゲホッ! オエェ!」
ちょっとした火事場みたいになってて、まともに喋ることもできないじゃないか。
黒色火薬くんさぁ、せっかく見せ場を作ってあげたのに、なんだいこの締まらなさは?
というか、ミンもわざわざこんな煙幕の中に突入してこなくていいんだぞ。
「ソーマ様。もっとゆっくりされてもよいのでは?」
「急用を思い出してな。すぐにでも出発したい」
傭兵どもを追撃したオットーたちが凱旋してくる頃には、太陽がすでに中天に昇っていた。
どんだけ執拗に追撃したんだよ。お前ら戦意高すぎだろ。
戦勝に沸く村人には悪いが、俺たちは一刻も早く出発したいとオットーに告げた。
なにしろオットーの家をさんざん硝煙臭くしてしまったので、あそこにもう一泊するのはとても気まずいのだ。
しかもあの部屋オットーの寝室っぽかったしな。正直すまんかった。
いや、もちろん理由はそれだけではない。
俺が撃ち殺した傭兵はおよそ10人、村人の追撃でも10人ほど討ち取ったので傭兵どもは半壊状態だろう。
今ならば連中の邪魔を恐れずに移動することができる。
追加の戦利品が大量に手に入ったおかげで、銀貨を支払わずとも馬を貰えることになった。
ひかれてきた2頭の馬は力の強そうな太い脚をしていて、俺のイメージする馬よりもずんぐりとしている。農耕馬というやつなんだろうな。
さらに食料やら寝藁やら飼い葉やら、オットーはこちらの要求を快諾して物資を集めてくれた。
オットーの妻はミンに合うサイズの服も用意してくれた。
村人たちも変な石やら木の根やらをいっぱい寄こしてきたが、これは俺の嘘設定のせいなので断りづらい。
まあ彼らの感謝の気持ちは素直に嬉しくもある。
馬の背に大量の物資を積み込んだ俺たちは、村人たちの歓声に見送られて村を出た。
歓声に応えて手を振るミンを見ながら、俺も心の中で彼らの無事を祈る。
いつかこの村にも、平穏な日々が訪れるとよいのだが…。
俺はなるべく村の防柵を視界に収めないことで、この情景を少しでもハートフル風に脳内変換しようとしていた。
「ご主人様のおかげで、柵に吊るす死体がたくさんできたね!」
「ミン、ほんわかレス推奨だと言っただろう」
俺のハートフル妄想をブチ壊しておきならがら、ミンは我がことのように誇らしげにムフーしている。
ミンが喜ぶなら、まあいいか。
俺たちは北に向かう道へ足を踏み出した。
村が見えなくなったら馬車を出して馬を繋ごう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます