第25話 王都の決闘
ビットナー領を出た後の俺たちを阻むものはなく、むしろ味方に転じた一部の関内候に先導されてついに王都ケーニヒスシュタットに至った。
さすがは王都、アイヒホルン領都アイヒホルゲンも大きいと思ったが、その倍以上の大きさの都市だ。
分厚い城壁と水堀に囲まれた城塞都市をギュンターの軍が包囲しようとしているが、包囲攻城戦なんぞかったるいのでサクサクやらせてもらおう。
なにしろこれから周囲の林から木を伐り出して、破城槌や攻城塔を組み立てようというのだから付き合ってられない。
この世界の連中はふだん殺伐としている癖に、たまに妙にのんきなんだよな。
そんなギャップを見せられても、一つも可愛くなりはしないが。
「ギュンター、包囲は不要だ。城門を壊すから突入の準備をさせろ」
「…エトヴィンが言っていた大魔法だね?やってくれるかい」
ギュンターに決死隊を編成させて、俺のお手軽攻城爆雷くんを3つ搭載した荷車を城門に横付けさせる。
激しい抵抗にあうかと思われたが、意外にも決死隊は多少の矢を浴びつつも一回で設置を成功させた。
「ギュンター。妙に抵抗が薄いと思わない?」
「そうだね。市街で待ち伏せするつもりなのか、あるいはもっと悪くすると…。いや、まずは城門を突破しよう」
コンラートとギュンターは抵抗の少なさに疑問を感じているようだが、敵が少ないならその方がいいじゃないか。
まあ、ともかく吹っ飛ばそう。
荷車から延々と伸ばされた荒縄に火をかける。
今回は黒色火薬くんをフル充填した爆雷を3つも置いたので、500m距離をとったぜ。
ギュンターの合図で、手はず通り全員が地に伏せて耳を塞ぎ口を開ける。
大爆轟雷音。
昼間でも目がくらみそうになるほどの閃光が奔ったかと思うと、1秒ほど遅れて耳どころか体全体を痺れさせるほどの衝撃に襲われる。
耳を塞いでいたのに、聴覚が麻痺して無音の空間になってしまった。
音は聞こえないが、攻城爆雷くんの成果は視覚だけで明らかに確認できる。
できるのだが…。
アカン、やりすぎた。
城門が木っ端みじんで跡形もないのはいいとして、周囲の城壁も広範囲にわたって崩れ落ちているし、大きく穿たれたクレーターに水堀の水が流れ込んでいる。
城門の奥に設けられていたバリケードらしきものも、残骸が見えるばかりでもう機能していないな。
そもそも、見える限りの敵兵は全員気絶したのか地に倒れている。
うーん、城門の大きさに合わせて黒色火薬くんの量を調整するのは難しすぎるぞ。
いやまあ、行軍の終着点と言うことでテンションが上がって、無駄に攻城爆雷くんを3つも並べたのは悪ノリだったが。
ギュンターの方を見ると、剣を振りかざして何やらパクパク口を動かしている。
なんだ、急に面白い動きを始めやがって?
あ、突撃を命令してるのか。
聴覚がまだ戻ってこないんよ。
ギュンターの周囲の騎士がそれに気づき、一人また一人と兵を引き連れて城門跡地に突入していく。
足元を水浸しにしてしまったのは正直スマンかった、歩きにくいだろうが我慢してくれ。
城壁内では散発的な戦闘がおこるだけで、心配された待ち伏せの軍勢は存在しなかった。
ギュンターの軍勢は王城を巡る戦いを制したのち、翌日からは敵対諸侯の王都屋敷を次々と襲撃して王都内から敵対勢力を駆逐していく。
なんだ、ギュンターたちが大げさに言うからどんな激戦になるかと思ったが、拍子抜けだな。
俺がいなくてもいずれ成功したんじゃないか?
俺は伝承官に会うために王都に来たのだが、まあさすがにまだそういう状況でないことくらいは分かる。
ギュンターが王都を完全に掌握するまで大人しくしているか。
王都ではさすがに焼き討ちもしないようだしな。
俺たちはアイヒホルン家の王都屋敷に滞在しているが、3日も経つとミンがすっかり飽きてしまった。
仕方ない、戦闘も収まりつつあることだし、そろそろ王都見物でもしてみようか?
俺たちが外出の意向を伝えると、ロルフは若干の呆れの空気を醸しつつ護衛の隊を編成してくれた。
別にそんな大仰な護衛とか要らんのだけどな(油断)
「ご主人様、変な泉!」
「ミン、あれは噴水と言うんだぞ」
王都内には噴水を囲む緑地があり、公園のようになっていた。
こんな殺伐世界でも公園で憩う文化があるのか、やるじゃないか少し見直したぞ。
戦闘の痕跡があちこちに見られるのはこの際、見逃しておいてやろう。
「! 、冷たい!?」
「なるほど、地下水を汲み上げているのでしょうな」
バルカも案外楽しそうだな。
毎日顔を合わせる内に、爬虫類の顔でも表情がわかるようになってきたぞ。
今は興味深そうに噴水の水を手柄杓で汲んでいて、ふと周りの景色に目を移したかと思うと、やおら長剣を抜きはらって…、ん?
「ご主君、囲まれておりますぞ」
「木の陰、たくさんいるよ!」
二人に警告されて、ロルフをはじめ護衛の兵士たちが俺を取り囲んで周囲を警戒する。
まだ王都内に敵の残党が潜伏していたのか。
しかしなぜ俺たちを?
ギュンターは警護が厚すぎるということだろうか。
「雷鳴の魔術師とは、そなたのことよな?」
こちらが警戒態勢をとったことを察してか、周囲の木の陰からゾロゾロとローブ姿の男たちが現れる。
その中でひときわ年配の、初老と言ってもよさそうな年頃の男が問いかけて来る。
「俺に何の用だ?」
「烈火の魔術師ユルゲンを知っておろう、弟子の無念を晴らさせてもらうでな」
なるほど、ニュンクスの街で立ち会ったユルゲンの師匠か。
わざわざ復讐に現れるとは、美しき師弟愛だな。
「案ずるでない。周囲の者たちは見届け人である」
初老の魔法使いが、警護の兵たちに語り掛ける。
まあ、ロルフがそれで警戒を解くわけではないが。
見届け人ということはあれか、俺とこいつが立ち合えばいいんだな?
面倒ではあるが分かりやすい話で安心したぜ。
「貴殿、あのユルゲンの師であるか」
お、バルカが俺の前に進み出た。
普段は控えめなバルカがこんな自己主張をするとは珍しい。
よし、ここは任せよう(サボり)
「左様、王都魔法一門の総帥にして、極寒の魔術師と異名をとるはこの儂、アロイジウスのことよ」
「ならば問う。何故、あのような者に技を授けた?幼児を攫い生き肝をすする外道であるぞ」
そんなことしてたのかよあいつ。
殺しといて正解だったな。
「魔法の道は険しきものよ。世の倫にとらわれては至れぬ頂がある」
「さらば我と立ち会え。険しき魔法の道とやら、ここで終わらせてやろう」
「…儂は名乗ったというに、畏れぬとは愚かなことよ。儂に二言を許さば、そなたは二度と目覚めぬ眠りにつくことになる」
「我はバルカだ。参る」
二人の間の空気が急激に張り詰めていく。
俺は他の奴らを警戒するか。
背負っていたM73を下し、初弾を装填して二人の動きを待つ。
静寂。
「氷獄の息吹よ!」
「おおおおぉ!」
バルカが疾風の踏み込みで斬りかかる。
が、初老の魔法使いは身をよじってバルカの初太刀をかわし、後ろに飛びすざった。
速いな、あいつ身体能力も相当なものだぞ。
「彼の者を閉ざせ!」
初老の魔法使いが突き出した錫杖から、青白い光の奔流が噴き出す。
一瞬でこちらまで伝わってくるほどの強烈な冷気の波動がバルカを捉え、初老の魔法使いは勝ちを確信してほくそ笑む。
が、バルカは止まらない。
「…な!?」
肩口から斬り下げられた魔法使いは、驚愕の声を漏らしたのを最期に、その険しい魔法の道程から永遠に脱落した。
「外道の行く道は、地獄に通じているものぞ。その目で確かめて来るがよい」
バルカは血振りした長剣を鞘に納める。
さすが『魔法耐性』を持つ、対魔法使いチート性能戦士だ。
見るとバルカの足元は地面まで凍っているのに、バルカ自身はわずかなダメージしか負っていない。
「見事だ、バルカ」
「バルカ、見事!」
俺たちがバルカを称賛していると、周囲の男たちは興味を失ったように立ち去り始める。
いや、薄情かよお前ら。
「おい、お前らの総帥とやらがやられたが、いいのか?」
俺が問いかけると、一人のローブ姿が振り返る。
白磁のように透き通った、ぞっとするほど美しい顔をした男だ。
「尋常な勝負であったゆえ、我らに遺恨のあるところではない。…それに」
「それに?」
「ユルゲンとその男が外道であるのは、その通りよ」
そう言い残して、王都魔法一門の者たちは消え去った。
あのさぁ。
それが分かってるなら、こっちに絡む前に自浄作用を働かせてくれませんかね…?
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