第24話 虚偽看破
ビットナー卿の率いる軍勢を破ったのち、ギュンターの軍勢は潰走する敵を追ってビットナー領に入り、同地に甚大な被害をもたらした。
ギュンターの軍勢はビットナー領都の小さな町に対して、焼き討ちを含む徹底した攻撃を行ったのだ。
小さな町は阿鼻叫喚の渦に沈み、そこかしこで肉親や家財を失った者たちの嘆きの声が聞こえてくる。
引き立てられてきたビットナー卿の妻子も、騎士たちに囲まれる中で懐剣を胸に突き立てて果てた。
…ここまでやる必要があるかね。
戦場で兵を殺すのは分かるが、なぜ人間の生活の場を破壊する必要があるんだ?
たしかに、逃げ込んできた敗残兵と呼応してこの町も抵抗を見せたが。
いや、そりゃ抵抗くらいするだろう。
ビットナー卿が引き連れていた兵たちは、多くがこの町に縁者を持つに違いないのだ。
軽薄で話しやすい雰囲気のギュンターに知らず知らず狎れていたが、やはり奴もこの世紀末世界の住人と言うことか。
もう十分だな。同道するのはここまでにしよう。
伝承官に会うのは難しくなるが、まあそれも急ぐことでは無いしな。
当面は戦火を避けて王都からは遠ざかるか。
などと俺が考えていたとき。
「お顔色がすぐれませんが、我らの振る舞いが、ご不快でございましょうか」
俺に話しかけてきたのは、ギュンター配下の騎士ロルフだ。
勘の鋭いやつめ、俺が離脱しようとしている気配をもう察したのか。
傍らにはコンラートもいて、心配げな表情でこちらを見ている。
「快いわけがない。俺が野獣どもの同類に見えるか?」
「敵に情けをかければ、さらなる戦いを呼び込むこととなります」
そんなことは俺だって分かっている。
たしかにこの世界の基準に照らせば、ギュンターだけをことさらに批難することは不公平だろう。
だが、それと俺が同道したいと思うかは別の話だ。
そもそもギュンターが野心から軍を起こしたことが根本原因だしな。
「それにもし我らが負けたならば、アイヒホルゲンで同じことが起きることでしょう。それが戦の習いにございますれば」
戦の習い、ね。
苛つくことを言いやがる。
つまり強いものは何をしてもいいということか?
…じゃあその戦の習いとやらで、このすまし顔の騎士も殺してやろうか。
「私を殺してお気が済むならば、どうぞなさって下さい。それでどうか、御館様の都入りにご助力を続けていただきたく」
俺の殺気を浴びてもロルフは平然としている。
覚悟決まってやがんなこの野郎。
いや、分かってはいるんだ。
俺はこの世界への苛立ちを、こいつらに八つ当たりしているに過ぎない。
でもこれ以上、気の乗らないことはしたくないというのが俺の偽らざる本音だ。
やはりここまでにさせてもらおう。
「ソーマ殿、お待ちください!この戦はすべて、私の企図したことです。ギュンターもロルフも、私の願いに応えてくれたのです!」
そう叫びながら、コンラートが俺とロルフの間に割り込んできた。
コンラートの勢いを警戒してミンとバルカも左右から俺の前に出て来るが、俺はそれを制してコンラートをじっと見つめる。
この虫も殺さなそうな男が、本当に一連の軍事行動を企図したのか?
「お怒りならば、私の命を差し上げましょう。しかし、今はご猶予をいただきたく。私の本望が叶えば、ソーマ殿の理想にも近づくことができます!」
「お前の命など要らん」
「いえ、私の本望が成らなければ、偽りの償いとしてこの命を差し上げます!ですから、そのお力を、私たちに貸していただきたい!」
「お、おい。やめ…」
なんか必死の表情でコンラートが俺にすがって来たぞ。
男に抱きつかれて喜ぶ趣味は無いんだ、お前はギュンターとイチャイチャしてろよ!
俺を巻き込むんじゃない、不穏なタグを追加することになるだろうが!
「お、俺の理想と言ったな?お前が、平穏な地を…」
「はい!この命に代えましても、地の平穏に尽くして見せます!」
わ、分かったから、離せ!
腰にしがみつくんじゃない、腰に!
タグのみならずセルフレーティングにまで侵蝕するつもりか!?
「ボクからも是非にお願いするよ」
いつの間にかギュンターもこの場に現れている。
ほら、お前の相方が来たぞ!あっちに絡め、あっちに!
「ソーマ。キミはあれ程の力を持ちながら、誰にも与さずに、ただ暴れ続けるつもりかい?それを黙って見ていられる諸侯はいないよ。必ず、キミを取り込むか、拒絶するか。いずれにしても争いになるだろう」
はい出ました。
ひとを騒乱発生マシーン扱いです(不服控訴)
確かにこれまでの出来事と一部偶然の一致は見られるが、事実であってもちくちく言葉は推奨されないため減点です。
「キミが地の平穏を望むなら、コンラートに助力するべきだ。彼はこの国を統べる候補の中で、現在最もマシな男だよ。ボクが保証する」
お前の保証が一番信用ならん!
さんざん謀略をめぐらせる割にちょいちょい失敗しやがって。
「もちろんボクも命を差し出すよ。ボクは、ことが成った後なら、成功でも失敗でもこの命をキミにあげよう」
こいつらホイホイ命を差し出しやがって(呆れ)
そうやって命の価値が低いのが世紀末だって言ってんだよなぁ。
「戦のありようが変わるのは、きっと遠い未来のことだよ。だから、力ある者が戦そのものを鎮めるしかない。ボクたちは王都に登り、諸侯を押さえつける力を得るつもりだ」
ギュンターから軽薄な雰囲気が微塵も感じられなくなった。
どいつもこいつも裏キャラクターを持ち出してくるんじゃない。
普通こんなうさんくさい言い分は、どうせ権力を得たいだけの詭弁だと切って捨てるところだよ。
…まあ、これが嘘じゃないらしいのだが。
『ステータス』。
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名前:平良 壮馬
種族:ヒューマン
年齢:29
レベル:31
スキル:
言語理解
└虚偽看破
鑑定
└分析
収納
└遠隔収納
銃召喚
└銃整備
└銃専心
隷属魔法
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はい、まさかの『言語理解』くんが派生しました。
これで異世界3点セット全てに派生が確認できたぞ。
『虚偽看破』、これの使い方はすでに感覚で分かっている。
俺に向けて虚偽の言葉が吐かれると、俺はそれを察知できるというガチの優れものだ。
『鑑定』と『収納』の派生スキルは「いやそれ最初からスキルに含まれててもいいよね?」というショボさだったのに『言語理解』くんの有能さにはちょっとビビってしまったぜ。
そして『虚偽看破』によれば、さっきからロルフも、コンラートも、ギュンターも一度たりとも虚偽を吐いていないのだ。
どうやら大真面目に、自分たちの理想に命を懸けているらしい。
…
……
はぁー(溜息)
『言語理解』くんは有能だと言ったが、撤回だな。
よりによっていま覚醒するもんだから、こいつらのトンデモ話が本気だと分かってしまったじゃないか。
チラリと、ミンとバルカを振り返ると、二人は完全に俺にお任せモードで大して話を聞いてすらいない。
二人とも何処へでも付いて来てくれる、ということでいいんだな?
…よし。
「よかろう。王都入りまでは助力してやる。ただし、何度も言うがお前らの命は要らん。それより、お前らの企みを成功させろ。それが条件だ」
俺がそう言うと、3者はそれぞれの反応で驚いていた。
ギュンターは目を見開き、反対にロルフは目を細め、そしてコンラートは口を半開きにしてポカーンとしている。
なんだよ、お前ら俺を説得してたんじゃないのかよ。
俺が説得されるのがそんなに意外なのかよ。
じゃあ説得しないでもらえますかね…?
「ボ、ボクが言うのもおかしいけれど、キミは他人を疑うことはしないのかい?」
「嘘なのか?」
「いいや、誓って真実だ」
「ならばいい」
俺がそう言うと、コンラートがプルプルし始めた。
やめろ、こっちに来るなよ。
「やった!ギュンター!」
お、よし。ギュンターに抱きついたぞ。
いいぞ、そのままお前らで絡んでいろ。
「ソーマ殿、ありがとう!」
おい!こっちに来るなと言うのに!
やめろ、マジで誰得なんだこれは!?
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