第12話 新たな力②

 ニュンクスの街を脱出した俺たちの馬車は、つい先ほどまでの騒乱など嘘のように麗らかな春の平原を西へと進んでいた。


 ニュンケ領を最短で抜けたいと俺が要望したところ、バルカが西へ向かうことを進言したからだ。


「というわけで。降りかかる脅威を払いながら、平穏な地を探しているんだ」


「なるほど」


 今は、俺の境遇や旅の経緯についてバルカに説明しているところだ。

 ニュンクスでは色々あったが、こうしてバルカのような理知的な同行者を得られたのは本当に良かった。


 俺とミンだけの旅では、どうしてもこの世界の常識面に弱点があったからな。

 バルカは落ち着いた雰囲気をしているので、これまでよりも穏健な行動指針を示してくれそうだ。


「つまり、ご主君の武威を諸国に示しつつ、旗上げの地を見定めているわけですな?」


 ん、どうしてそうなった?


「ご主人様、すごい!」


 あれ、ちょっと期待していたのとは違うような?

 まあ、おいおい誤解を解いていけばいいか。

 今はニュンケ領を無事に脱出することが最優先だ。


 なんにせよ人数が3人になったことは旅を容易にしてくれた。

 御者、見張り、車内で仮眠、の3ポジションをローテーションできるので、道中が野営続きでも消耗せずに済みそうだ。




 ニュンケ領内を西進して2日目。

 それまでとは異なり、たびたび少数の武装集団と出くわすようになった。

 どうやらニュンクスでの変事が伝わり、豪族の勢力圏から続々と応援が駆けつけているようだ。


 バルカによると、この方面に勢力をもつのはヘルマン家らしい。

 こいつらはヘルマン家の私兵であろう。


「おい!その馬車、とまれ!」


 黙ってすれ違えばよいものを、これが一々絡んでくるので始末に負えない。

 俺は一応、戦闘回避の努力をしてみる。


「我々はニュンケ領の騒乱とは無関係だ(大嘘)」


「なんだっていい、荷と金を全部置いていけ!」


 はい、予定調和いただきました。

 

 轟音。




「この領も戦利品たくさんになったね、ご主人様!」


「ご主君の武威がこれ程までとは、感服いたした」


 あのさぁ。

 ミンのムフーの別バージョンが増えただけじゃないか!


 まあ、ちょうどいいから派生スキルの練習でもするか。


 そう、またスキルが派生したのである。

 『ステータス』。


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名前:平良 壮馬

種族:ヒューマン

年齢:29

レベル:20

スキル:

言語理解

鑑定

└分析

収納

└遠隔収納

銃召喚

└銃整備

隷属魔法

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 人間を殺すだけで上がるレベルシステムは、もうそういうものなのでいい(無常観)

 はい、『収納』から派生しました。


 これは読んで字のごとく、これまで対象に触れていないと『収納』できなかったものが、1m程度離れていても『遠隔収納』できるようになったのだ。

 現在はこの練習のために、馬車に乗ったままヘルマン兵の武器を『遠隔収納』している。


 …いや、分かるよ。

 前回の『分析』といいこれといい、初めから能力に含まれていても良かったよね?


 異世界3点セットが機能拡張されるという意外性に喜んでいたけど、なんかちょっと騙された気がしないでもない。




「お、バルカ止めてくれ。1時から敵影だ。数30」


「心得申した」


 さらに1日後、俺が屋根の上で見張るローテ番の時、前方にこれまでよりも数多い集団が見えた。

 

「ご主人様、獲物?」


 仮眠番のミンが起きてきた。

 そんなに獲物が好きなのかこいつは?

 まあ、安全のために戦闘時は全員起きる手はずなのだが、それにしても高速反応である。


「ミン、旗印は見えるか?」


「うーん、今までと同じ旗。でも鎧を着てるし、馬車もあるよ」


 屋根の上に登ってきたミンが目を凝らす。

 同じ旗ということはヘルマン家だな。

 いよいよ本拠地から精鋭が出てきたのかも知れん。


 

 しかし、鎧か。

 ニュンクスから出た追手の騎兵もそうだったが、鎖帷子を着込んだ兵士にはSAAはもちろんのこと、同じ.44-40弾を使用するM73でも致命傷を望みにくい。


 近距離であれば鎖帷子そのものは抜くとは思うが、ダウンさせるのに何発も要すると思われるのだ。


 この対策は、すでにある。


 あるというか、”なんとかなる”という感覚がずっとあるのだ。

 まあ、やってみるか『銃召喚』!


 身体からエネルギーが抜け出し、両手の輝きに吸い込まれていく。

 ああ、ライフルを生み出すときの消耗量だな、とこの感覚にも慣れてきた。


 やがて実体を現したライフルの全長は約1.3mと、ミンの背丈に迫るほど大きい。

 飴色の渋い木製部分は、ハンドガードから機関部下部、そしてストックに至るまで一体の削り出し。


 薬室を覆うカバーは前方に蝶番を備えた異形で、通称トラップドア。

 すなわち家屋天井の小窓になぞらえた開閉機構を持つ、後装式ライフル銃である。


 これぞまさしく、スプリングフィールドM1873(以下、SF1873)。


 西部劇のラスト10分に現れる無敵の騎兵隊。彼らが手にするバリバリの軍用ライフルで、使用弾薬は.45-70ガバメント弾。

 もちろん黒色火薬である(諦め)


 うーん、後装式。まさかの単発装填が来てくれました。

 まあ、これは読めてたけどね。


 だって黒色火薬の縛りで、威力が足りないってなったらもう装薬量を増やすしかないもんね。

 そうなると当然、後装式ですよ。

 いや、誰も黒色火薬縛りでやれとは言ってないんだがな。

 

 よし、ミンがキラキラした目でこちらを見てるから、腐ってないで撃つか。

 

「ミン、俺が撃つたびに1発ずつ渡してくれ」


 全長6cm以上ある長大な弾薬を10発召喚し、ミンの両手にジャラジャラと載せる。


 SF1873の機関部脇にはみ出したハンマーを起こし、薬室を覆うトラップドアを開いて.45-70弾を挿し込む。

 トラップドアを閉めれば装填完了だ。


 俺は馬車の屋根に伏せ撃ちの姿勢をとり、SF1873の狙いを定める。

 敵までの距離は150m、初弾にしては遠いが目標は密集してるからイケるだろ(適当)


 轟音。

 発射煙が多すぎてよく見えんが、兵士が1人ぶっ倒れた。


 さすがは.45-70弾。数字が示す通り.44-40弾の倍近い黒色火薬くんが詰め込まれているから強いのだ(脳筋思考)


 ハンマーを起こしてトラップドアを開くと、エジェクターが連動して空薬莢が飛び出す。

 ミンから受け取った.45-70弾を再び挿し込んでトラップドアを閉める。

 慣れれば7~8秒に1発くらい撃てそうかな?


 次弾を発射する。

 今度は見えた。


 呆けて立ち尽くしている兵士の鎖帷子を引き裂いて、その中身にも大穴を空けた。

 着弾の衝撃で兵士自身も弾かれるように倒れている。


「バルカ、奴らが近づいてきたら馬車を動かして、今くらいの距離を維持してくれ」


「承知、彼らにとっては地獄となりますな」


 バルカは指示に従い馬車を回頭させた。

 俺はSF1873を装填して、馬車の動きに合わせて反対向きに伏せなおす。

 敵は近づいて来ない。混乱しているようだな。


 轟音。

 槍を持った兵士の脇腹が爆ぜて、鎖帷子の破片と兵士の内容物が飛び散る。


 轟音。

 金属製の兜が跳ね上がって、兜の持ち主は割れたザクロみたいな、いや詳細は省こう。


 轟音。

 ますます密集するもんだから2人抜いたっぽいぞ。

 金属部位に当たらなければ、人体を余裕で貫通するな。



 なんだあいつら、向かっても来ないし逃げ出しもしない。

 ただ右往左往するばかりで、一人ずつ倒れていく。


 うーん、なんだかなぁ。

 なんというか、これはもう違うかな。


「バルカ、迂回しよう。向かってくるなら撃つが、おそらく来ないだろう」


「心得申した」


「ご主人様、戦利品はいいの?」


「ミン殿、これ以上は戦とは呼べませぬ。ご主君の武威に傷がついてはいけません」


 ミンは不思議そうな顔をしていたが、バルカに諭されて一応納得したようだ。

 なんか明後日の方向に情操教育が進んでいるような気もするが、まあいいか。


 しかしSAAもM73も1873年製なわけだが、ここに来てSF1873である。

 えーと、神様。その年になにか思い入れがあるんですかね?


 俺は特に無いんで、この縛り解除してもらっていいですかね…?


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