第15話 クーニッツ領の危機

「ヒルジャイアントがもういない?」


「おう、谷の中まで偵察したから間違いないぜ!」


 巨大ヒルジャイアントを仕留めた日の夕方、ミクリング族の集落で本日の偵察結果を聞いている。

 谷にはまだ半分くらいのヒルジャイアントがいたはずだが、ミクリング族の男たちがその不在を確認したようだ。


「やっぱり昨日のデカイのがボスだったんだな!」


 なるほど、群れのボスをやられたヒルジャイアントどもは、ねぐらを移す決断をしたようだな。

 じゃあこれで駆逐作戦は終了か。やったぜ。


「ありがとう、ソーマ!おかげで谷が通れるようになったぜ!」


 ミクリング族が次々とやってきては、俺たちを取り囲んで歓声を上げている。


 この日はそのまま戦勝の宴となった。

 鹿を豪快に焼いた肉をメインに、山菜や果実といったミクリング族の収穫物が惜しみなく振舞われた。


「こんなにくれるのか?」


「冬に作った秘薬で、春にクーニッツに売りに行くつもりだったやつだよ」


「時間が経っちゃったから作り直すんだ。全部持って行ってくれよ」


 ヒルジャイアント駆逐の報酬に受け取ったミクリング族の秘薬は、100ccくらいの壺で20本もあった。

 くれるというなら遠慮なくもらうか、俺の『収納』なら使用期限の心配もないしな。


 そういえばミクリング族には俺の『収納』を秘匿せずに見せちゃってるな。

 一応これについては口止めしておこう。

 彼らの素朴な空気にほだされて、つい警戒が緩んでしまったようだから反省しよう。


「それでクーニッツ領はどんな領なんだ?」


「隣のレングナー領と毎年戦争をしてるね」


 お、シンプルにダメな領きたな(4領目)

 パベルからクーニッツ領の情報を収集しているが、さっそく俺の理想のハートフルスローライフの地ではないことが判明した。


「レングナーの領主とニュンケ領のヘルマン家が手を組んで、毎年クーニッツと戦争をしてるんだ」


 ヘルマン家はニュンケ領の外にもちょっかいをかけていたのか。

 

 むむ、ということはだよ?

 ヘルマン家と敵対している俺たちは、ヘルマン家と組んでるレングナー領主とも自動的に敵対しちゃうのか?

 誰と誰が争っていても俺は興味ないんだがなぁ。


「ソーマみたいな凄腕の魔法使いなら、たぶんクーニッツの領主に勧誘されるぞ」


 いやいや、俺は戦争に加担するつもりは無いからな。

 




 翌日、俺たちはミクリング族の見送りを受けながら集落を発った。

 ヒルジャイアントに占拠されていた谷はもぬけの殻で、何事もなく進行することができる。


 谷には天然の洞窟がいくつかあり、少し覗いてみると壁面にはアオカビが多数生えているのが見える。

 このアオカビがミクリング族の秘薬の原料だろうか。

  



 谷を抜けると、だんだんと丘陵の起伏が少なくなっていきやがて草原地帯に出た。

 たぶんここからがクーニッツ領だ。

 

 うーん、今回は先にネタバレを喰らっているので、ハートフルスローライフ妄想をする余地がない。

 次の地を目指すために、クーニッツ領はさっさと通過させてもらおう。


 俺は『収納』から馬車を出して曳き馬を繋いだ。

 御者台に乗り込むと傍らにM73を立てかけ、背後にSF1873を置いて手綱をとる。

 久しぶりの駅馬車モードだ。


「暑くなってきたね、ご主人様」


「日差しがキツかったら、無理せずに言えよ」


「うん、まだ大丈夫!」


 ミンの言う通り、草原を行く俺たちには初夏の日差しが降り注いでいる。

 俺がこの世界に来て約1か月、どうやら季節の変わり目にあるようだ。


 まあ高温多湿の日本出身である俺にとって、このくらいではまったく過ごしにくさはない。

 湿気も少なく、大して暑くならない気候なんだろうと予想される。



「あ、街だよ!10時の方向!」


「よし、一応街に寄ってみるか。戦利品もいっぱい溜まってるしな」


「でも、戦ってるみたい、ご主人様」


 はぁー、そのパターンか。

 しょっちゅう戦争をしている領らしいから、盗賊とかじゃなくて普通に戦争してるのかもな。


 こりゃ、迂回かね。

 戦争なんか俺にはまるで関係ないからな。


「襲ってるのは、ヒルジャイアント!」


 …おや?

 これはもしかして、俺もちょっとは関係してる…、かも?


 本当にもしかしてだけど、俺たちに谷から追い出されたヒルジャイアントの群れが、前方の街を襲っている可能性がほんのわずかに…いや多分そうだな(受容)

 

「仕方ない、ヒルジャイアント退治は乗りかかった船だ」


「仕掛けますか、ご主君」


「ミン、ほきゅー係!」


 いい加減こいつらの相手は飽きたからな、ガンガン仕留めて行こう。





 俺たちは街の防壁に攻め寄せているヒルジャイアントたちの背後に回り込んだ。

 

「バルカ、もし奴らがこっちに向かってきたら、すぐに馬車を離脱させてくれ」


「承知仕った」


 射撃助手のミンを傍らに、俺は伏せ姿勢でSF1873を構える。

 先日に『銃召喚』から派生した『銃専心』、このスキルを意識すると一気に周囲の音が遠ざかっていく。

 

 轟音。


「グボッ!?」


 初弾でヒルジャイアントの後頭部を撃ち抜いた。

 驚異のタフネスを誇るヒルジャイアントでも、さすがに頭蓋を砕かれると一撃でダウンするみたいだ。


 次々とヒルジャイアントの後頭部、側頭部を撃ち抜いていく。

 およそ1分強で10匹を仕留めると、防壁上の兵たちが武器を掲げて喜んでいるのが見えた。


 残ったヒルジャイアントは3匹。

 狂乱の様相で防壁に手足を叩きつけているが、兵士たちが群がって槍を無数に繰り出して撃退している。


 今なら誤射せずに当てられる気もするが、万が一があると面倒事になりそうなので俺はここまでにしよう。

 

 やがて上半身を無数の槍傷でスタボロにしたヒルジャイアントは、1体また1体と斃れた。

 最後の1体が倒れ伏すと、俺は射撃姿勢を解いてSF1873に装填していた弾薬を取り出した。


「…ごい!ご主人様、すごい!」


 お、まだ『銃専心』が解けてなかったか。

 道理で音がしなくて静かだと思った。

 ミンに揺すってもらう以外の解除法も身につけないとな。


「これまでも恐るべき武威でしたが、なんとも、これは…」


 バルカは呆れたような様子だが、いつもみたいに褒めてくれないのかな(承認欲求)


「ご主君であれば、どの地でも望みのままに攻め取ることができますな」


 いや、褒めてくれたけどさ。

 バルカはいちいち物騒というかなんというか。

 

 ん、防壁の門が開いたぞ?

 馬に乗った騎士というか、これまで見た中でも一番立派な軍装をまとった人物がこっちに向かってくる。

 年の頃は40歳前後かな。


 供の兵士は10人くらいか。

 状況的にすぐに敵対関係になるとも思えんが、一応警戒しておこう。


「ミン、バルカ。もし連中と戦闘に入ったら逃げるぞ。攻撃は足止め重視でいい」


「うん、わかった」


「委細承知」


 俺は排出していた.45-70弾をもう一度、SF1873の薬室に込めなおす。

 一応、万が一に備えてね。


「御館様!前に出られては危のうございます!」


「向こうがその気であれば、どれほど護衛を立てても同じことよ」


 なんか、やいやい言い合いながら立派な格好の騎士と、それに追いすがる兵士の二人組が集団から進み出てきた。


「私はクーニッツ領主、エトヴィンである。救援に感謝する」


 おっと、領主本人なのか。

 あちこちの領で領主絡みの騒動に巻き込まれてきたが、領主本人に会うのはこれが初めてだ。


 どうしよう、魔法使いロールプレイを始めて以来、誰に対しても偉そうな口調で来たけど領主とか想定してないぞ。

 相手によって切り替えるのも面倒だし、今まで通りでいいか。

 最悪、怒って害されそうになったら撃ち殺ろせばいいだろ(過激派)


「俺はソーマだ。魔法触媒を探して旅をしている」


 怒ってないかな?大丈夫そうだ。

 そんで、魔法触媒の設定はそのままいこう。

 平穏な地を探しているとか言いながらこの領を素通りしたら、統治批判だと受け取られかねんからな。


「ソーマ殿。貴殿は、かの雷鳴の魔術師であるな?」


 その呼び名はやめろ!!!


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